07話
「お、お邪魔します」
お母さんに許可を貰って家に上がらせてもらった自分、でも、不安そうに見えたのか彼女達の家族である猫ちゃんも一緒に来てくれていた。
ところで部屋に勝手に入ってしまったわけだがいいのだろうか? ベッドの上には彼女が眠っているが。
起きた瞬間にあたしに気づいて飛び上がる……なんてことにならなければいいけどね、そんなことになったら怪我をしてしまうかもしれないから避けたい。
「にゃにゃ」
「いや、あ、君が起こしてきてよ」
「にゃ」
まじか、本当に言葉が分かるらしい……? ベッドの上に簡単に上ってご主人様の顔を踏んでいた。
躊躇ねえ、言葉は分かるのにそこが大事なところ、踏まれたら気になるところだとは分かっていないようだ。
それとも普段はこうして起こしてもらっているということなの? 春夏秋ならともかく冬にも部屋の扉を開けておくというのは寒そうだった。
「……邪魔っ、だから顔の上を歩くんじゃないわよっ」
「にゃっ」
「ん? え……」
あたしの戦いが始まる、目標を達成するまで今日はみさとの家に帰ることなんかできない。
毎日走っているのもあって体力には自信があるので彼女が逃げようとどこまでも追ってやるのだ。
「どうも」
「ぎゃあ!? あ、あんたなんでいんのよ!」
「このままだと嫌だからだよ、今日はちゃんと友達に戻るって言うまで離れないからよろしくね」
彼女はこちらを指さすのをやめてベッドに座った、そのまま難しそうな顔で目を閉じて腕を組む。
「……私だって本当ならあんたといたいわよ、でも、いまのままじゃ駄目なの」
「あたしが中途半端な態度だから?」
露骨に差を作っているということだからあまり褒められることではないがそれなら大丈夫だ。
彼女に求めているそれとみさとに求めているそれは違う、自分で言っておいておかしいものの中途半端なんかではなかった。
「それもある、あとは……私に原因があるわ」
「それは勝手に悪く考えているだけだよ」
「違うのっ、私がこんな状態だから困っているんじゃないっ」
「こんな状態って言われても分からないけど」
猫ちゃんは空気を読んでいるのかそうではないのか、なんとも言えない場所で休んでいた。
そのため触りつつ喋ってくれるのを待つということができない、緊張なんかはしないが沈黙が続くと段々とここに居づらくなっていく。
「……あんたともっと一緒に過ごしたくなってしまっているのよ」
「だからそれに対しては嬉しいって言ったよね?」
一緒にいたい、それは過去の自分も言われたことがある。
当然、嬉しかった、言われたその日はすぐに寝られなかったりもした。
相手のことが嫌いとかではなければ基本的にみんな同じだろう、言われてむっとするようなことではない。
でも、彼女から言われたときは過去一番というか嬉しさの強さが違った形になる。
「はぁ、なんでこいつはこうなのか……」
「え、もしかして――」
「そうよっ、だけどあんたは鯉田先生が好きなんだから邪魔はできないじゃない、そこは友達として邪魔をしたくないじゃないっ」
だけどどうしてこうなってしまったのか。
「鯉田先生のことは本当にいい人だと思っていたわ、でもね、付き合いたい気持ちなんかはなかったのよ? なのにあんたは勘違いしていたわよね」
「仮にそうでもなんであたしのことを?」
「……昔から他人と上手くやれなかったの、その証拠にあんた以外の子とはいないでしょ? だからつまり……」
「特に問題があるようには見えないけどな」
仮に性格なんかに問題があるとしたらあたしは四月から七月まで一緒にいない、足も貸したりなんかしない、ちくちく言葉で刺してくる系なんかは過去にいたが一週間も続かなかった。
「それはあんたが変だからよ」
「えー変人扱いはちょっと……」
「実際にそうなんだから仕方がない。誰一人として三ヶ月も続いたことはなかったもの、なのにあんたは違う、つまりそういうことよ」
「じゃあ変人を好きになっているあなたも、こっちに興味を持ってくれているあの人も変人?」
変人ではなくても彼女もみさとも物好きであることには変わらない、高身長という要素がかなりでかいのであれば……いや、高身長なら誰でもいいという考えなら危ないから止めるよ。
見た目も中身も大事だ、あとはある程度のスペックも必要になる。
「あの人はともかく私はそうね」
「ははは、自分で言っちゃうんだ」
「変人というか必要以上に怖がってチャンスを無駄にしている人間ってだけだけど」
「怖がっていたかなぁ、最初はともかくすぐに堂々とできていたと思うけど」
「装っているだけよ、本当の私は弱くて小さいの」
本人がこう言っていてもそれはないな、うん。
こっちだって学校では強いままでいられることばかりではなかった、だけど彼女がいてくれたからなんとかやれただけだ。
みさととは最近まで……まあ出会ってからそこまで経っていないから当たり前だが一緒にいられていなかったからそういうことになる。
「そんなことを言わないで、言い続ける限りあたしは離れないからね」
「はは、それなら言い続けていた方が得じゃない」
「駄目だよ、言っても言わなくても離れないからね」
結局近づいてきた猫ちゃんの頭を撫でて「あんたは自分勝手ね」と言った、事実その通りだったのででしょと返しておいた。
「やっぱりいないか」
「誰が? もしかして桒原さん?」
「そうよ」
でも、夏休みにだって教師は仕事があるだろうから祭りの日だろうと楽しむことはできない。
そういうデートもできない関係ってあいつどう感じているんだろう。
「桒原さんなら大きいからすぐに見つけられそうだけど、まだ見つけられていないということはそういうことなんだろうね」
「……じゃない、なに話しかけてきてんのよ」
桒原が部屋にいたときぐらいには驚いた、なんとか我慢できたけど下手をしたらぎゃあと叫んでいた可能性がある。
「だってこそこそしている子がいたから、それにあなたといれば桒原さんと一緒に見て回れるかなーって」
「全然来ていないくせになにが一緒に見て回れるかもーよ」
「それはあなたが独占しているから悪いんだよ、お礼だってしたいのに全くできていないし……桒原さんの方から来てくれたことがないし……」
「つか彼氏のふりを頼むとか最低ね、そこは彼女のふりにしておきなさいよ」
逃げるだけで特に迷惑もかけなかったこちらのことを見習ってほしい、まあ、あの日は本当にずっと帰らなくて鯉田先生に怒られるんじゃないかと心配になったぐらいだけど。
でも、意地になっていただけだったとしてもああして来てくれて嬉しかった。
「あー……桒原さんも気にしていたみたいなんだよね、そうしておけばよかった」
「とにかくもうそんなことは頼まないように、それと桒原がいないからこそこそするのはやめてなにか食べ物を買って食べましょ」
「いいよ」
お腹が空いたのとやっぱり期待なんかはするべきじゃないってことが分かった。
邪魔はしたくないとか言っておきながらあいつならもしかしたら一緒に行動してくれるかもしれないなんて気持ちを抱えつつ来たのが間違っていた。
「あれ? 自分から誘っておいてあれだけどグループの子達は?」
「みんな隣の市のお祭りに行っちゃったみたいで誘っても受け入れてくれなかった」
「隣の市に行くぐらいには祭りが好きなのにこれには付き合わないって変ね、そりゃ規模は違うだろうけどこれだってちゃんとしたお祭りじゃない」
必ず毎年行きたくなるぐらいには、私的には十分なお祭りだ。
ちょっと高いけど美味しい食べ物や沢山の人が来ているため賑やかな雰囲気、そして最後には花火と楽しめる一日となっている。
「だから一人で寂しくいたんだけど、あなたがいてくれてよかったよ」
「別にあんただから誘ったわけじゃない、ここまで来てなにも買わずに帰るのが違うから――なによ……え」
「はは、来てくれていてよかったよ」
得意気な顔で頷いているのは放っておいて見慣れた顔と大きい彼女をついついぼけっと見つめてしまった。
「は、はあ? あんたなんでここにいんのよ?」
「ははは、お祭りがあるからだよ」
「ちょ、ちょっと、あんたあの人は?」
へらへら笑っている場合じゃない、こういうところが好きなところで嫌いなところだった。
複雑だけどもっと差を作っていいから……いや、作ってくれないと困る、そうしないとまだ無駄に期待をしてしまう。
「変装した状態で来ているよ、だけどいまは人の多さに酔っちゃって休んでもらっているんだ」
「それなら一緒にいてあげなさいよ、だからそういうところが――あ、ちょっ」
「ほら行こうっ、いっぱい買って食べようっ」
「そうだねっ、行こう!」
祭りだからなのか鯉田先生と来られているからなのかやたらとハイテンションだ。
話しかけたときなんかには笑ってくれるけど基本的には無表情だから新鮮だ、だけどやっぱりなんか違う。
「あんた買いすぎ……」
「両親にも買っていこうと思って、こういうときのために貯めてあったんだ」
「ふーん、優しいのね」
……でも、こうなってしまったなら素直にならなければもったいない、別に無理やり誘って付き合わせているというわけじゃないんだから気にするなと変えていく。
「はい、ちなみにこれはあなたの分ね」
「自分の分ぐらい自分で払うわよ」
「駄目、棒のお菓子のお返しだよ」
言ってしまえば十数円出したというだけなのに大袈裟過ぎる、鯉田先生に対してだって同じようにいいんだよなどとへらへら笑って言っていそうで気になる。
「桒原さん、それならお世話になったことだからこれを……」
「いいよそんなの、それより問題は起きていない?」
「大丈夫だよっ、あ、たまになんでもっと連れてこないのかって言われるけど……」
「それならまた行くよ」
「ほんとっ? 桒原さん大好き!」
はあ? はぁ、なんだこいつ……。
だけどお腹が空いていてはなにもできないということでちゃんと! お金を払ってから食べ始めたのだった。
「こうして動いていても寝られるなんてすごいですね」
「ごめん、任せちゃって」
「気にしないでください、教師としてこうするのは当たり前です」
「しー」
「あっ、そうですね」
ちゃんと集まってちゃんと花火も見られたが二人を送ることになった。
彼女に力があることは知っているため違和感はないもののなんというか少し羨ましかったりする。
「着いたよ起きて」
「……送ってくれてあんがとね、あと邪魔をしてごめん」
「いいんだよ、またね、明日かどうかは分からないけど家に行くから」
「分かったわ、それじゃあね」
二人を送って彼女の家への前に一人自宅に戻ることにした、渡すために買ったのにこのままあっちに持って帰ったら意味がない。
「ありがとね」
「かな、父さんは嬉しいぞ!」
「はは、また行くから」
「当たり前でしょ」
「そうだぞかな!」
元気でよかった、この夏休みだけではなくて一生あのままでいてほしい。
ちょーっと一人になったぐらいで寂しく感じるぐらいなのにいなくなったらメンタルが終わる、好きなみさとが側にいてくれてもきっと変わらない。
「おかえりなさい」
「うん、ただいま――あ」
「え? 別に変なことはしていませんよ?」
「いや、いま気づいたんだけど口に青のりがついているなって」
「も、もっと早く言ってくださいよっ」
結構な頻度で鏡をチェックするような人だから帰宅してチェックをしていたと思ったんだけどな、なんか違ったらしい。
それと意地悪をして教えていなかったというわけではないのに意地悪認定をされていたからお風呂に入って休むことにした。
だってこの人、変装しているのをいいことにあの子達とだけ楽しそうに話していたからだ。
それだというのにちゃんと付き合うのは違う、なんでもいつでも相手が折れてくれると考えているのならそれは大間違いだ。
「かなさん……かなさん?」
「早くお風呂に入ってきなよ、あたしは先に寝ているから」
「ね、寝ないで待っていてくださいねっ」
寝るつもりなんてない、ただ少し拗ねているだけだ。
あの二人がいるところでいつも通り過ぎなくて本当はよかった、ただ、楽しそうに話しているところに加われなくてこうなっているだけ。
天井を見たり左を向いたり右を向いたりして時間をつぶす。
「かなさん、起きていますか?」
「……起きてる」
「そ、それなのになんでこっちを向いてくれないんですか?」
「ちょっと疲れたからだよ、あと照明が眩しいからこうしているだけ」
「なら消したら大丈夫ですよね」
真っ暗の状態で寝転んでいたらきっとすぐに眠気がやってくるだろう、あとはいま言ったことは嘘ではないから影響を受けているのもある。
誰かがいるときは多少ましになるとはいえ、あたしは依然として暗いところが苦手だ、それだというのに夜に外にいればそりゃあ疲れるよねということで……。
「こっちを向いてください」
「ま、もう暗くなったからね……って、予想以上に近いところにいたんだね」
「今日はかなさんと一緒に寝ようと思いまして」
ふぅ、大丈夫だ、落ち着いてきた。
真っ暗な中でずっと目を閉じずにいれば段々と見えるようになってくる、距離が近いのもあって明るいときほどではないにしてもみさとの顔がよく見えた。
瞬きはしているものの彼女も一緒だった、こちらをなにも言わずに見てきている。
「……あの二人にばっかり優しくするみさとにむかついていたの」
「私はちゃんとかなさんに話しかけましたよ? 寧ろ反応してくれなかったのはかなさんの方ですけどね」
「途中から余裕がなくなって無理だった、黙ったら暗いところが怖くなって駄目だったんだよ」
あと自分といるときよりも楽しめているように見えてそれも嫌だった。
「いまは大丈夫なんですか?」
「流石にこの距離に人がいてくれれば大丈夫だよ、しかもそれが好きなみさとなら尚更のことだね」
「え、いま……」
「最初から気になっていたわけだからね、みさとが拒まずに受け入れてくれていた方がおかしかったんだよ」
滅茶苦茶アピールをして揺れに揺らしてそれから~ということならまだうんという感じではあるがそうではなかったから、だから彼女のことを考えたふりをしつつも調子に乗ってしまったりしたのだ。
「……学生時代に好きだった同性の先輩に似ていて格好よかったからというのが最初気になった理由でした」
「へえ、その人も身長が高かったんだ?」
その人の格好いいは見た目ではなく行動力なんかが関係しているのだろう、いま気になるのは可愛いか奇麗かそのどっちかということだ。
「はい。いつも気にかけてくれて、なにかがあったときには助けてくれて、そういうつもりではないと分かっていても期待するのをやめられなかった。でも、知らなかっただけで彼氏さんがいたんです」
「優しい人ならなにもおかしなことじゃないね」
「はい、だけどあのときは動く前に終わったのもあってもうやめようと思っていたわけですけど……」
いや待て、その格好いい先輩みたいなことを求められても無理だぞ。
というかもうそれは八月まで過ごしてきて分かっているはずだ、それなのに彼女はまだこうしてあたしといてくれている。
ということは彼女は少し前に想像していた通り、高身長の同性なら誰でもいいと、そういうことなのか? 格好いいわけではないからそうなってしまう。
久しぶりに出てきた申し訳ない気持ちが強すぎて抑えるのに苦労している、高身長女子がいいならスポーツ選手とかにした方がよかっただろうに。
「ま、まあ、どんな理由であれ求めてもらえるなら嬉しいけど、いいの? その人と同じぐらいの人が簡単に見つかるわけじゃないにしてもあたしで妥協はもったいないよね?」
「妥協なんかではありませんっ、かなさんのそういうところは悪いところだと思いますけどねっ」
「え、だって女子にしては高身長……だったからでしょ?」
「違いますよっ」
どうやら違うらしい。
「あ、違うんだ、てっきり身長が高い同性なら誰でもいいのかと――」
「もう馬鹿っ、寝ます! 話しかけてきても返事をしませんからね!」
反対を向いてしまったからこちらも寝ることにした。
一人で起きていても仕方がないというのと、寝転んでまったりしていたのもあって眠気がやってきたからだ。
いつも寝転んでいる布団の上だというのもあって気づいたときには朝だった。
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