神様の療養中

ちびまるフォイ

人間たちのエゴ

ときは元日のこと。


(今年1年、健康で過ごせますように)

(今年こそ彼女をゲットできますように)

(推しのライブツアーの抽選にあたりますように)

(とにかくなんでもいいから幸せにしてくれ!)


人々は5円ぽっちのお賽銭で、

あきらかにそれ以上の結果を要求しまくっていった。


その願いはスパムメールのように神様へと届いた。


「うあああああ!! もういやだぁぁぁあ!!」


大量の願いにあてられた神様はついに体調を崩してしまった。


「……大丈夫ですか、神様」


「おお死神……ごめんな。看病してもらって」


「困ったときはお互いさまですよ」


「しかし困った……、まだ処理できてない願いが山積みなのに」


「その状態でまだ人間の願いを受け止めるおつもりですか!?」


「私は神だぞ。人間の願いを叶えてこそ……ゴッホゴホ!」


「ああ、もう! ますます悪化しているじゃないですか!」


「すまん……」


「願いを叶えるのも神パワーがいるんです。

 いまは少しでも休んでパワーを貯めてください」


「わかってる……わかってるんだが……」


神様が願いを叶えてくれないので、

みるみる人間からの願いは積み上がっていく。


さらに悪いことにこの神の体調不良を知らない人間が、

どうして叶えてくれないと逆ギレしはじめる始末。


繊細な神様はそんな悪口をみてまた体調を崩してしまう。


「神様、人間に今の状態を教えましょう」


「今の状態?」


「とても願いを叶えてられる状況じゃないってことです」


「しかし……それは神としてのプライドが……」


「このままだと願いが貯まり続けますよ?」


「そ、そうか……しょうがないか……」


死神の提案を受けて病床の神様は人類に語りかけた。


『人類の迷える子羊たちよ。

 我はちょっと体調不良で願いが叶えられぬ。

 

 なのでいましばしの休養をする。

 

 今届いている願いは回復してから叶えよう』


語りかけ終わると、神様は肩の荷が下りたように安心した。


「これでよし。願いはこれでしばらく止まるはず。

 体が回復するまでゆっくりさせてもらうよ」


「それがいいですよ、神様」


神様が布団をかけたとき。

いままで穏やかだった人間たちの願いが一気に届き始めた。


「うわわわわ!! なんだなんだ!?」


神様は届いた願いを見てみると、

どれも同じような内容が書かれていた。



(神様が早く元気になりますように)

(はやく元気になって願いを叶えてくれますように)

(がんばれ神様! 早く元気になって!)



願いを見たことで、神パワーが消耗し神様は倒れてしまった。


「神様! 早くベッドへ!!」


死神により神様はベッドへ戻された。

眠る余裕もなくただうなされている。


「うう……まさかあんな願いがくることになるとは……」


「神様の健康を神に祈るとは……。

 とりあえず賽銭箱に願いを要求するのがくせになってるんでしょうね」


「ああ……もう嫌だ……願い……見たくない……」


「ますます体調悪くなってますよ、神様。

 もうハッキリいいましょう」


「ハッキリ……?」


「人間界から距離を置きます。

 実家の天界に帰らせてもらいます、というんです」


「ば、ばか! そんなこと言ってみろ!

 人間たちがなんて言われるかわかったもんじゃない!」


「神なんですし、それくらい勝手してもいいじゃないですか」


「私は人間を救うために神になったのだ!

 人間を困らせるために神になったわけではない!」


「でも絶賛今も人間は困ってますよ」


「それはそれだもん!!」


かたくなに譲らない神様に死神は頭を悩ませた。


「でもどうするんです?

 このままじゃ叶えきれない願いが届くばかりですよ」


「それはそうだが……あっ」


神は回らない頭でふと思いつく。


「おい死神よ。お前は人間に詳しかったな」


「ええまあ。天界よりも人間界で仕事してますからね」


「たとえば……どうしても休みたいとき、

 でもどうしても休みにくい状況があるとする」


「はい」


「そんなとき、人間はどうやって休んでいるのだ?」


「そうですねぇ……。1回しか使えないですが、

 確実に休める言い訳がありますよ」


「そういうのがほしいんだよ! 教えてくれ!」


「それを聞いてどうなるんです?」


「人間が納得しやすい理由であれば、

 神が休養していたとしても文句言われないだろう」


「まあたしかに」


「はやく教えてくれ! いったいどんな理由なら納得してもらえるんだ!」


しかたなく死神は神に理由を教えた。

神は「なるほど」と納得した。


「よし、その理由でいこう。人間への説明は死神がやってくれるか?」


「よろしいんですか?」


「私が言ったらわざとらしくなるじゃないか」


「神様、たまにセコいとこありますね」


「あえて当人から伝えないことで、

 人間たちの混乱をふせぐという狙いもある」


「わかりましたよ」


「はーーこれでしっかり休める。

 ちょうど見たかった映画も見られるぞーー」


「ちゃんと休んでてくださいよ」


死神は神様の部屋にスポーツドリンクと冷えピタを置いていった。

そして、神様から仰せつかった人間への連絡を行うことに。


できるだけ人間が混乱しないように。

できるだけ人間が納得しやすいように。


短い言葉でコンパクトに伝えることにした。



『神様は葬式のためしばらく休養いたします』



死神が伝え終わって天界に戻ると、青ざめた神様がやってきた。


「お前なに言った!?」


「なにって。休養することを説明しただけですよ」


人間界は「闘病のすえ神は死んだ」と誤解され、

天地をひっくり返す阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたという。

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