百合のナンパ!?
「──スマホ忘れてましたよ」
いきなりのことに驚きながらも緩徐に顔を上げると、そこには青髪のボーイッシュ少女がスマホを片手に私に笑顔を向けていた。
慌ててポケットやら鞄の中を確認する私だったけど、少女が持っているのにあるはずもなく。
「す、すみません。ありがとうございます」
「まさか映画館で忘れるとは思わなかったよー」
「あ、あはは。そうですね……」
苦笑を浮かべながら少女からスマホを受け取ろうと手を伸ばすと、
「せっかくですし少し話しませんか?」
悪気はなさそうに笑顔で私の手を包んでくる。
え、ナンパなの?この私の見た目でナンパとかしちゃうの?それにあなた女の子よね。もしかしてそっち系の人……?いやいやいや、たとえあなたがそうでも私は違うからね!?ここはやんわりと断って……。
「えっと──」
「彼氏さんとなにかあったの?」
私が断ることを見過ごしていたのか、言葉を遮って話題を振ってくる少女。
幸か不幸か、今の私はその話題に敏感である。そのため、
「そうなのよ!デート中なのにいきなり帰るとか──」
思わず口からこぼれてしまった本音を慌てて手で押さえて少女の顔を見る。優しい顔でうんうんと頷くのを見て手遅れだと悟った私は口元から手を離して俯く。
「すみません。忘れてください……」
「忘れないよ?ほら、ちゃんと私の顔を見て話してごらん」
見る限りだと私よりも年下のはずなのに口調や行動、接し方が優しいお姉さん……いや、どちらかと言うと本当にナンパしている男とやっていることと同じ気がする。私もよくナンパされるから分かるけど、優しい言葉で近づいてきて違和感のないボディータッチ。これ本当に私ナンパされてるんじゃ?少女の見た目もボーイッシュだし、こんな見た目の私にも近づいてきてくれるだなんて……割とあり──
そう思おうとした瞬間彼女のポケットから電話が鳴り出す。
「ちょっとごめんね?」
「え、あ、はい」
私が了承するとすぐにスマホを耳に当てて「どうしたのー?」と言いながら少し離れていってしまった。明らかにさっきとは違う声色で……。
一分後、電話を終えた少女はなにやら慌てた様子でこちらに急いで戻ってくる。
「ごめんねメガネちゃん!」
「め、メガネちゃん?」
いきなりのあだ名に驚いていると顔の前で手を合わせられる。
「いきなり急用が入っちゃって!ほんっとにごめん!」
その言葉を聞いた私は無意識に冷めた目を向けてしまう。
「そうですか、スマホの件につきましてはありがとうございます」
「どういたしまして!それじゃあね!」
私の前髪のせいで視線に気づかなかったのか、青髪の少女は大きく手を振りながらエスカレーターを駆け足で降りていく。私も小さく手を振りながらボソッと呟く。
「あなたもその理由ですか」
一瞬でもあの子のことをありと思おうとしていた私のおでこにデコピンを入れて大人しく自分の家に重い足を運ぶ。
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