可哀想だからデートぐらいね③
「なに見ます?」
東EONに到着した俺たちは3階の映画館で上映スケジュールを見ながら星澤に話しかけると、
「窓のカラス締めを見たいです!」
未だに目をキラキラさせている星澤が言ってくる。
移動中もそうだったが、こいつずっとウキウキしてるな。そんなに映画が好きなのか?
いや違うな、俺とのデートを楽しみにしているんだろ。
「そ、そんなにニヤついてどうしました……?」
「え、ニヤついてましたか?」
「何度も頷きながら少しだけ……」
「それは、すみません」
♡ ♡
ふふーん。どうせこの私とのデートが楽しすぎてニヤついちゃってるんでしょうー?私の見た目は陰キャ同然だけど、性格や完璧な喋り方に引かれちゃたんだねー。
「な、なんか星澤さんもニヤニヤしてません?」
「そ、そうですか?」
「頷きながら少し……」
「き、気の所為ですよ。それよりも映画が始まってしまいますよ」
私は話を逸らし、楽しみにしている窓のカラス締めのチケットを手に入れるために購入機へと向かう。聡善もこれ以上は聞かずについてくる。
「面白かったですねー!」
「そ、そうですね」
聡善はなぜか気まずそうに少しだけ顔を逸らして言う。
もしかして私が泣いてたことバレたの?いやいや、明るかったのならまだしも私が泣いたのは上映中の暗闇だったから見えるはずがないし、前髪で目元は隠れている。それに聡善も映画に集中してたし……大丈夫よね?
そんな心配事にいたたまれなくなった私は聡善から視線を外し、別の話題をもちかける。
「つ、次はどこ行きますか?」
「次ですか、そうですね」
そう言葉にしながらポケットからスマホを出し、時間と何かを確認する聡善。
「……すみません。この後どうしても外せない用事が出来ました」
スマホの画面をスライドさせながら言葉を口にしてくる。
え、聞き間違えじゃないなら急用ができたって言ったよね?それもスマホをいじりながら?
こいつと遊びたくない私からすると帰ってくれるのは凄く嬉しいけど、せっかく次のことを持ちかけてあげたのにそれを無下にするの?
「あ、あの星澤さん?」
いきなりのことに立ち尽くしていると聡善がスマホから顔を上げ、私の顔をじっと見てくる。
「え、あ、はい。どうしたしたか?」
聞き間違えかもしれないから念の為もう一度聞いておこうかな。一応ね?一応。
「この後どうしても外せない用事が出来たのでここで解散でいいですか?」
聞き間違えじゃなかったことを知った私は今できる最大の愛想笑いを浮かべ、
「分かりました。ではまた月曜日に」
「ありがとうございます。本当にすみません」
「いえいえ」
早足にエスカレーターを降りていく聡善に右手を小さく振り、左手は聡善が振り返ってもいいように背中の後ろで強く拳を握りしめる。
結局振り返るどころか、手も振ってくれなかった聡善はあっという間に目の前から姿を消し、そんな態度をされた私の顔からは愛想笑いが消え、知らぬ間に引きつった笑みへと変わっていた。小さく溜息を吐き、表情を無に戻して近くにあるソファーベンチへと腰を下ろす。
寛大な心を持っている私でも、そんな態度を取られたら流石にイラつくわよ?なにが急用よ。それもスマホをいじりながら伝えてくるし!仮にも私は彼女よ?急用は百歩譲っていいとするわ。でも人と話す時はスマホは見ないで欲しい。そんなんだからほかの女子にモテないんでしょ?私も好きじゃないけど。
俯きながら心の中で愚痴を言っていると、トントンと肩を叩かれる。
「──スマホ忘れてましたよ」
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