可哀想だからでーとぐらいはね③

   ◇ ◇



 そしてついに来てしまった。


 俺は駅前に置いてある、ピアノ横のベンチソファに腰を掛けてポケットからスマホを取り出す。


 12時45分か。少し早く来すぎたか?デートなんてしたことないから基準がわからん。でもこれだけはわかるぞ。あいつよりも俺が先に来るのはおかしくね?誘ったのはあいつなのになんで誘われた側の俺が先についてんだよ。


「はぁ」とため息を吐きながら視線を地面へと向ける。

 するとトントンと誰かが肩を叩いてくる。

 やっと来たか、と思いながら顔を上げるとリュックの肩紐を握っている髪ボサのメガネ女子が視界に入ってくる。


「こんにちは」


 星澤が軽く頭を下げて挨拶してきたので俺も軽く頭を下げて同じように挨拶を返す。


「こんにちは」


 お互いに頭を下げ合い、数秒後に顔を上げて星澤の服装に目を向ける。

 シンプルな白パーカーに黒のジャージパンツ、そして黒色のリュックに黒色のスニーカー。


 そして俺は自分の服装にも目を落とす。


 シンプルな白パーカーに黒のジャージパンツ、そして黒色のリュックに黒色のスニーカー……これって傍から見たら陰キャのカップルがペアルックをしている風に見えてるよな?最悪だ……。


 悪感情を抱きながらため息を吐くと、星澤の方からも小さな息を吐く音が聞こえる。


 緊張しているのか?まぁそれもそうか。お前みたいなブスが初デートで緊張しないわけが無いよな。ここで嫌われたら振られる可能性もあるだろうし。


 星澤には聞こえないように一息を吸い、陰キャ設定で話しかける。


「到着早かったですね」

「聡善さんこそお早いのですね」

「ですかね」


 かなり今更だけど、こいつ丁寧語過ぎないか?あまり女子と話さないから分からないが、これが女子の中では普通なのか?


「では早速行きましょうか」

「はい、行きましょう」


 星澤の意見に賛同し、愛想笑いを浮かべながら星澤の行動をじっと待つ。

 すると星澤も笑顔をこっちに向け、行動を止めてしまう。


「えっ、と……星澤さん、どうかしましたか?」

「ど、どうにもしてませんけど……なにかおかしな点がありましたか?」

「おかしな点と言いますか、今日行く場所とかって決めては──」


 質問の理由がよく分からなかったのか、小首を傾げて口を開く星澤。


「──決めてません、けど」


 まさかとは思ったがこの女。この俺の事をデートに誘い、俺よりも遅くに来たくせにデートの場所すらも決めてないのかよ!

 どれだけ傲慢だっていうんだ!


 眉間を押さえ、数秒考えてから言葉を口にする。


「そうですか。では映画にでも行きましょうか」


 愛想笑いを浮かべたまま星澤に提案すると、前髪で隠れていてもわかるぐらい目をキラキラとさせ、食い気味に頷いてくる。


「行きましょう!」

「え、あ、はい」


 そんな星澤に引き腰になりながらもなんとか愛想笑いだけは守ったと思う、多分……。

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