弟妹の独り言①
「おかえり姉ちゃん」
重い足をリビングに入れるとテレビを見ながら匠海が出迎えの言葉をくれる。
「ただいま……」と力のない声で言葉を返し、水を飲むためにキッチンへと向かう。そんな私に違和感を持ったのか、匠海はテレビを消して話しかけてくる。
「どうしたの?変なことでもされた?」
「まぁ、ちょっとね」
そう呟きながらコップに水を注ぎ、勢いよく飲み干す。そして何回か深呼吸をして心を落ち着かせてからもう一度口を開く。
「あのブスがかなりの糞人間だっただけよ」
「姉ちゃんってそんなに口悪かったっけ……」
苦笑を浮かべる匠海を気にもせず、心を落ち着かせたはずの私の口からは次々に愚痴がこぼれだす。
「あいつ帰る理由でなんて言ったと思う?急用ができたって言ったのよ!?」
それからは私の愚痴の嵐だった。あいつの悪いところにあいつの服装、あいつの性格のことやら顔のこと、すべて匠海にぶちまけた。
最初から最後まで苦笑を浮かべていた匠海だったけど、愚痴を聞き終えた後にはなぜかふむふむと何度か頷き出す。
「姉ちゃんが男の話をするなんて珍しいね」
「これは話じゃない!愚痴よ!」
「男の話題を出してる時点でオレからしたら変わらないんだけどね」
「うるさいうるさい!私はあんなブスのことなんて興味ない!」
むしゃくしゃした私はその言葉を最後にリビングを後にする。
♧ ♧
姉ちゃんが自分の部屋に戻り、静けさが残ったリビングでオレはブツブツと独り言つ。
「こんな姉ちゃん見たことない……いつもはナルシストで『私って可愛いから仕方ないよねー』って言っている姉ちゃんがこんなに感情的になるなんて……まさか運命の出会いなんじゃないのか?」
これまでも姉ちゃんにはたくさんの男がひっついてきた。でも姉ちゃんはそんな男たちのことなんて気にもしなかった。それどころか、さっきも言った通りナルシスト気質がある姉ちゃんは『私かわいいもんね〜』って言うばかりだ。そんな姉ちゃんがナルシストにならずに感情的になっている。これは運命としか言いようがない。
「姉ちゃんの事を考えたらこれはいい機会だ。あんなに顔がいいのにナルシストのせいで結婚できなかったらあまりにも勿体ない。相手にも色々事情があるだろうけど、姉ちゃんのためなら僕があの彼氏の顔と性根を叩き直してやろう!」
ウンウンと頷きながらオレは今後の計画を立てるのだった。
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