木馬、麦、牙。賢い麦君、可愛い麦君

木馬







むぎくん、むぎくん、きょうはなにしてるの?

「あのね!ママ!モクバって知ってる?」

木馬ね。木馬なら知っているけれど、麦君にとっては木馬ってなあに?

「あのね!モクバってね!にぃにが学校で作ったの!木でできたお馬さんなんだよ!」

なるほど。実にその通りだね。麦君は賢い子なんだね。

あのね、麦君。ママはね?本気で思ってるの。麦君は頭のよい子なんだって。だからね、私の想像だけれど、麦君はきっと気付いてるんじゃないかな。お兄ちゃんと自分は顔立ちが違うって。

ほんとはね、麦君は孤児っていってね、赤ちゃんの時に、お母さんとお父さんが死んじゃったの。

もしかして分かるのかな。死んじゃうって事の意味も。そうよ。もう絶対に会えないの。

人間はね、死んじゃった人にはお墓を用意するから、まるでいつでも会えるような気がするけれど、ほら、麦君はさ、木馬っていう二文字の言葉を、「木」と「馬」に分解して理解できるでしょ?だからさ、ママはわざと言ってるの。死んだ人には、会えないのよって。

麦君、保育園でお友達とケンカしたでしょ?先生から聞いてるのよ。麦君の「犬歯」が、すっごく尖っていて、お友達がそれを「牙みたい!」って笑ったんだって。だけど麦君は、「これは歯だよ」って知っているから、「牙じゃない!!」って怒ったんだってね。

はっきりしている事が好きなんだね。そういう麦君、かっこいいよ。

だけどね、ママは心配になるの。この事実を教えたら、麦君はどう思うのかなって。

麦君の、麦、っていう名前。

これはね、私と夫。つまり、今のママとパパがつけた名前なの。

――――――つまり、ね?

それもはっきりさせちゃうのかな。本当の両親からの名前じゃないって。

――――――





私は、麦君にその事を打ち明けた。

「ふうん」

麦君は灰色の瞳を見せた。

「ねえ、ママ」

「な、なに?」

「僕って、優しい子じゃないのかな?」

「えっ……?」

麦君は横を向いた。ぶつぶつと何かを呟き考えている。

なんとも、返答がし難い。

だって、麦君は賢い子だから。いたずらに褒めても見透かしてしまうでしょう?

「僕ね、ママのこと、最初はお母さんだと思ってたの」

え――――?

「でもね、違ったの。お母さんじゃなくて、ママだって」

えっと…………

「そしたらね?実は僕、パパにちょっと叱られたの。ちゃんとした言葉を使いなさいって。麦は賢い子なんだからって」

ああ…………

「でもね、僕はそうじゃないと思うの。おとなとこどもはちがうから」

「大人と、子供……?」

「うん…………」



「僕はね、まだ、こどもなの」



ああ、かわいいね。私の家族。とっても愛しい麦君や。

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