第1章 視えるモノ、視えないモノ 6
魔女見習いとは、今どきの女子高校生が名乗るには、いささか
「そうか。それで箒なのか」
「取られちゃいましたけどね。面目ない」
僕の性格で人と冷静に会話ができているのは意外だったが、緊急事態には何とかなるものなのかもしれない。あるいは、僕を好奇心が占めていたからか。
「どうして、君はあの怪物に突っかかっていったの?」
「それはですね。実を言うと、彼女は
「指名手配? 怪異の世界にもそんなものがあるのか」
「怪異とか神秘とかだからといって、何をやってもいいなんてことはないでしょう?」彼女は少し黙りこんでから、「すみません、親切な方。お名前は」
「団野赤月」
「赤月さん」在町すみ花は僕の名前を復唱し、続けてその大きな瞳をこちらに向けて言った。「わたしはここで、みすみす窃盗犯に逃げられるわけにはいかないんです。でも、ちょうど休暇中だったこともあって、他の武器を事務所に置き忘れてしまって……。弱音を吐くと、今のわたしでは力不足です。ですから、恥を忍んでお願いします。犯人の確保に協力してくださいませんか?」
彼女の瞳の奥には美しいほどの真剣さがあった。
「わかった。その代わり、事が済んだらいろいろと教えてほしい。僕は今、君に出会って、とても深刻な人生の岐路に立たされているんだ」
彼女に力を貸すことで、長年の悩みへの答えが見つかるかもしれない。僕は晴れて精神疾患の免罪符を剥ぎとられて、これからは単に無能な人間として日々を過ごしていくのかもしれない。
一足先に立ち上がり、手を差し伸べると、在町すみ花は僕の手をしっかりと掴んできた。
「お約束します。一度やってみたかったんです。人生相談」
「そういう意味で言ったわけじゃないんだけど」
まあいいか。
百目鬼はなおも好戦的に竹箒を構え、こちらの挙動を窺っている。
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