第1章 視えるモノ、視えないモノ 7
「で、僕は何をすればいい?」
「わたしを背負って、あちらの攻撃を躱してください。あの箒には絶対に触れないこと。いいですね? わたしはその間に策を練ります」
了承する前に、少女が僕の背中に飛び乗ってくる。そう、あの目玉女と違って、この魔女見習いには温もりも質量もあるのだ。後ろに下がり、飛んでくる竹箒の一閃を間一髪で回避する。どういうわけか、ろくな運動もしていないのに、昔から身体を使うことは得意だった。
「どうして触っちゃいけないんだ? どうも僕にだけ、あの箒はすり抜けるみたいだけど」
「だから余計にです。あなたには、普通の人間には視えないはずのモノが視えていますが、たぶん、まだ認識にまでは至っていません」
「認識?」
「心の底からその存在を信じていないってことです」
「なるほど?」
「存在は認識によって実体を得るんです。つまりですよ、あのとき、もしも竹箒が貫通している状態で、赤月さんが百目鬼の存在を認識してしまったら――」
実体化した竹箒が僕の身体を貫いている場面が脳裏に浮かび、背筋に寒気が走った。もしもあのとき、彼女に腕を引かれていなかったらと考えると、いや、考えたくもない。
「……あいつに弱点はないの?」
「そうですね。百目鬼の弱点は、やっぱりあの腕についている目です。もしもあれに、竹箒のけばけばを叩きつけることができれば」
「だとしたら、取り返さないとか。ところで僕は、君のことは認識できているのに、君の竹箒は認識できていないのか」
「どうやら所有権があちらに移った段階で、竹箒は百目鬼に付随するものとして見られるようですね。そうでなきゃ、実態を持った箒だけが宙を舞うことになってしまいますから。赤月さんのいる世界だけで見たら、矛盾です」
「なるほど」
百目鬼の動きは愚鈍で、放たれる一撃こそ渾身であったが、この調子であれば当たるということはなさそうだ。
ぼそりと、背中越しに少女の声がした。
「赤月さん、あんなに恐ろしいものを視ているのに、肝が据わっているんですね」
言われてみれば。彼らに出会ったときの僕は決まって、自分の存在感を希薄にしようと努め、ひたすらに目を瞑り、彼らがいなくなってくれるのを祈っていた。少なくとも、こうして真正面から対峙してやろうとは考えもしなかったはずだ。
思い当たる理由はある。
「今は一人じゃないから」
「わたしも、心強いです。では、作戦を伝えますね」
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