第1章 視えるモノ、視えないモノ 3

 気づけば特に理由を思いつく時間もなしに、本能のまま、目玉女を追いかける少女のあとを追っていた。

 少女はただ適当に走っているわけではない。彼女の目には確かに、視えないはずのモノが視えているらしい。僕だけにしか視えないはずの景色が。僕が想像の世界で創りだしたはずの妄想の断片が。

 自分の異常性を認識して以来、僕を苛み、苦しめ続けたのは社会からの疎外感だった。当初こそ想像力豊かな少年だと面白がられていたようだが、僕があまりにも突飛なことを言うせいか、日に日に両親も顔色を悪くし、一緒に鬼ごっこをしていた友人たちも離れていった。自分が周りと違うのだと理解したときには既に手遅れで、僕は僕に視える異様な世界をあからさまに、馬鹿正直に話し終えたあとだったのだ。こうして僕の子ども時代は、嘘吐きだと囃し立てられるところから始まり、その理由に精神疾患の名を充てられて以降は、不気味なほどに色白で根暗な見た目も相まって、近づいてはならない頭のおかしい人間だと忌避されるようになった。友人を得ることも、どこかのコミュニティに入ることもままならなかった僕は、一人孤高を演じ、積極性やコミュニケーション能力を培う一切の機会を失った。結果、就職のための面接試験に一つも合格できない現状だけが残っている。

 つまり僕は、僕自身が生みだしたあの幻覚たちを心の底から恨んでいたわけだ。

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