異種族師弟の密かな日常
めぐむ
プロローグ
その瞬間、身体中を電撃のような衝動が駆け抜けた。
薄汚れて傷だらけの手足には、血の跡が残る。その身体には布のようなものが纏わり付いているだけで、肌のほとんどは空気にさらされていた。
夕暮れから宵へと変わる間際の空のような紫色の髪は少しも手が入っておらず、ぐしゃぐしゃに絡みついている。長さも揃わず、肩や腕。肘や膝。ときに地面にまで伸びきっていた。
その髪の隙間。頭頂部から、二本の角が天を向いている。
さらされた身体の腹部には、何らかの入れ墨が覗いていた。
尾てい骨から伸びた尻尾は、力なく地面を引きずっている。
みすぼらしい幼子のような生物。
それはのろのろと地面を這うように森の中を進んだ。いくらか舗装された小道から外れた生物には、本来の道へ戻る力も残されていない。ぬかるみの残る水気のある土の上。生物はその上に身体を丸めて横たわった。
紙のように白い顔の中で、やけに際立って光る赤い瞳がぼんやりと空へと向けられる。
浅い呼吸を繰り返す口元からは、八重歯がきらりと光っていた。
その呼吸音が徐々に小さくなっていく。四肢の力も抜けきった身体は、まるで力をなくしたゴムのようだ。赤い瞳がゆっくりと瞼に覆われていく。
生物はそのまますべての意識を放り投げ、その場で動かなくなった。
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