第10話

どうも、阿片あへん戦争の事を考えたせいか、おかしな連想をしてしまう。

そうだ。この国が、異人達の計略で阿片漬けになるのは、防がねばならんのだ。


「美味かった。歳さん、御馳走様ごちそうさまでした」


口元くちもとぬぐいながら、沖田は頭を下げた。


「気に入ったか、総司。

買ってきた甲斐かいが有ったな」


「はい。近藤先生にも買って行くと、きっと喜んでくれると思いますよ」


「近藤さんか。

…そうだな。いずれな」


「ねえ、歳さん。

近藤先生の事、これからも、よろしく頼みますね」


「総司。お前は、何も心配するな。

病気を治す事だけ考えろ」


既に近藤は、敵に捕まっている。

今日にでも処刑されるかもしれないのだ。

それは沖田に話せない。

話したところで、どうなるものでもない。


「歳さんは、私と違って頭が良いですから。本当に」


確かに土方は、合理的な考え方の出来る、頭の良い男だ。

しかし、それを鼻にかけたり、他人を見下す野暮やぼな事は、決してしない。

それに沖田も、言葉の裏を読むのが不得手なだけで、どちらかと言えばさとい方だ。

普段は大らかだが、戦いの場では、勘が鋭く働く。

近藤の方も愚鈍ぐどんではないが、気性が真っすぐ過ぎて、融通ゆうずうかない不器用ぶきような男だ。

土方と違って、時代の変化に柔軟に対応できなかった。

いくさに勝ち続ければ、いずれ大名だいみょうに成れると近藤が信じていると知った時は、さすがの土方も、絶句したものだ。

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