第9話


あの飢饉ききんでは、百万人以上も死んだ。

この先の新政府軍とのいくさでは、いったい、何人死ぬのだろうか。

本当の敵は、この日本をかすめ取ろうと狙っている、異国いこくの奴らだ。我ら旧幕府軍にとっても、戦う相手の新政府軍にとっても、本当の敵は異国だ。

よく分かっているのだ、そんな事は。内戦で犠牲者ぎせいしゃを出せば、国力がけずられる。そうなると、異国の奴らの思うつぼなのだ。

それでも、土方は引き返せない。鉄砲や大砲も、外国人から買う。グラバー商会からだ。

グラバーという蘇格蘭人スコットランドじんは、新政府軍にも武器を売っている。両方に武器を売りつけて、金を稼いでいるのだ。

グラバー商会の親会社であるジャーディン・マセソン商会は、たくみに暗躍あんやくし、英国と清国との間に、阿片あへん戦争を引き起こした。

結果、清国は英国に領土を割譲かつじょうさせられた挙句あげく、経済や軍事、そして政治を外国に牛耳ぎゅうじられる事になってしまったのだ。

清国内では阿片あへん蔓延まんえんし、国力も大いに低下してしまったと聞く。

ジャーディン・マセソン商会は、阿片戦争で武器商人として大いにもうけ、今は印度インド産の阿片を売りつけて、これまた大儲けしているらしい。

我が日本も、同じような術中にはまっているようにも見える。内戦などは、さっさと終わらせるに限るのだが。

しかし、流れは止められない。2つの陣営、どちらかが相手をたたつぶす以外に方法が無いのか。


そういえば…。


「総司、この庭には、随分ずいぶん芥子けしの花が咲いてるんだな」


「ええ、綺麗きれいですよね。ここは庭師にわしの家ですから、仕事で使うんじゃないですか?」


最後のひと串を食べ終えた沖田は、串を元の竹皮に包んで、ひもしばった。後で燃やしてもらうのだ。


そんな沖田の隣で、土方は芥子の花を眺めていた。

かつて薬のあきないで生計せいけいを立てていた土方は、知っている。ここで生えてる芥子は、阿片の材料になる品種だ。天保てんぽう時代から江戸でも栽培さいばいされていたのだ。

阿片は鎮痛ちんつう作用がある。ひょっとしたら、沖田の主治医は、ここの芥子から阿片を作るのか。助からない患者の痛みを緩和かんわするために、阿片を使っているのだろうか。ついつい、そんな事を想像してしまう。

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