第7話

沖田は、タレがしたたらないよう気を付けながら、ひと口、食べた。

少し冷めていたが、美味うまかった。


二人とも、庭の方を向いて座っている。


「どうだ、美味いか。

労咳ろうがいは、滋養じようのある物を食って、ゆっくり休むのが、一番良いそうだ。

ヤツメウナギは、滋養があるからな。

たっぷり食ってくれ」


モグモグとヤツメウナギを咀嚼そしゃくしながら、土方が言った。


「久しぶりに食べましたが、美味いですねえ。

日野ひのに居た頃は、ドジョウやウナギを捕まえて食べていましたが…。

この串焼きは、タレが美味い。

江戸には、美味い物が多いです。

京の食べ物も美味かったけど、やっぱり、江戸の方が口に合いますね」


「そうか。そんなに気に入ったのなら、買ってきた甲斐かいが有ったな」


土方は、タレの残った串を口にくわえたまま言った。


「そう云えば、歳さん。試衛館しえいかん稽古けいこしていた頃も、皆でウナギを食べましたね」


上洛じょうらくして新撰組を結成するより以前の、昔の事を思い出したせいだろうか。先ほどまでと違い、沖田は土方を「歳さん」と呼んだ。


「ああ、そんな事もあったな。

お前がさばいて焼いていたっけ。

あれは、あれで美味かったなあ」

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