第3話

「あの時は・・・ちょっと心が、れていまして。

病気の心細さに、いくさに参加できないくやしさが混じって落ち込んでいたんです。

そんな時に、近藤先生が来てくださって。

・・・あの、今日、近藤先生は、一緒じゃないんですか?」


実は、この時、新撰組しんせんぐみ局長の近藤勇こんどういさみは、大敗した甲州勝沼こうしゅうかつぬまの戦いで、新政府軍に捕まってしまい、今はとらわれの身だった。

まだ処刑は、されてない。

土方は、勝海舟かつかいしゅうを通じて、近藤の助命嘆願に奔走ほんそうしている。


・・・しかし、そんな事情は、とても沖田に言えない。


「ん・・・。

近藤さんはなあ・・・。

ちょっと、自由がかないんだな、今は」


「そうなんですか?

相変わらず、近藤先生は忙しい人なんですね。

あの、何か言伝ことづけとか、ありませんでしたか」


「ん、いや、特には無いが・・・。

だが、どんなに忙しくても、総司の事は、いつも気にしていたな」


「・・・そうでしたか。

それは、とても有難ありがたい事です。

病気でさえなければ、私も少しは役に立てたと思うんですけど」


また障子しょうじの向こうから、ふっと笑う土方の気配がした。


「少しは?

役に立てたも何も、お前、俺より強いじゃねえか。

お前が居てくれりゃ、役に立つどころの話じゃねえよ」

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