第2話


そんな或る日の事だった。


「沖田さん、お客さんですよ」


世話役の老婆が、部屋の外から声を掛けてきた。

見舞客か。珍しいな。

と思っていると、良く知る男の声が聞こえた。


「よう、総司。

どうだ、塩梅あんばいは」


沖田は、思わず飛び起きた。


「土方さん。

来てくれたんですね」


声の聞こえた、縁側えんがわの方に向かって返した。

障子しょうじは閉じられたままなので、姿は見えない。


「うむ。すっかり御無沙汰ごぶさたで、すまん。

これでも俺ぁ、忙しい身なんでな」


縁側に腰を下ろす、新撰組副長、土方歳三ひじかたとしぞうの気配がした。

土方は、家へは上がらず、庭から直接来たようだ。


「とんでもない。来てくれるだけで、感激ですよ。

…近藤先生は、随分ずいぶんと前に来てくれましたが」


「そうらしいな。

近藤さんに聞いたが、総司よ、お前、感激して泣いたんだって?

えぇ?」


ふっと笑う、土方の気配。

障子越しに伝わる。


「今日はな、忙しい俺が、こうして時間を割いて来てやったんだ。

遠慮せずに、泣いてもいいんだぞ」

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