サンホセのスタバでの出会い(コスタリカ)

 旅に出ると色々な出会いがあり、それは旅の醍醐味のひとつと言ってもいい。例えば、チリのアタカマ砂漠で出会ったアメリカ人女性は幼子を夫に預けてひとり旅を楽しんでいた。日本人好きの台北のお爺さんからは息子の嫁にと誘われたし、スペインの朝のバルで出会った紳士は自分が通っている日本語学校まで案内してくれた。

 その日その時間を共有するだけの一期一会の出会いが多いが、サンホセでの出会いは数年経った今でも奇跡的に続いている。


 サンホセは中米コスタリカの首都だが小さな国なので首都の街並みもコンパクトで、喧騒というよりはのんびりとした雰囲気が漂う。街の中心部も例外ではなく高層ビル群や高速道路が少ないので首都なのに空が広い。

 土産物店やレストラン、雑貨店などが並ぶ通りを過ぎるとスターバックスがある。すぐ近くにあるマクドナルやKFCなどとは対照的で外に行列があるわけでもなく静かで落ち着いた佇まいだった。

 店内の列に並んでいると、コーヒーマイスターの証であるブラックエプロンをつけたスタッフから「日本人?」と英語で声を掛けられた。ニコやかな笑顔から差別的なことや不快な言葉を発するつもりではないことは見当がついたが、アジアのどの国でもなくピンポイントで日本人?と尋ねられたことに少々驚いた。

 並んでいる間に交わした会話によると、彼女は日本のアニメと歌舞伎が好きで独学で日本語を勉強しており、そこにたまたま日本語が聞こえてきたので嬉しくなって声を掛けてきたらしい。

 ドリンクを買って席についた後も彼女は私たちに付き合い、日本のアニメの素晴らしさ、日本文化の面白さ、日本語を学ぶことの楽しさを身振り手振りを交えて熱心に語ってくれた。サンホセに旅行に来る日本人は少ないから(あくまで彼女曰く)あなたたちを見つけた時は神様からの贈り物を受け取ったようにエキサイトしたと、こちらがちょっと照れてしまうこともさらっと言ってのけた。

 いやいや、嬉しいのは私たちも同じですよ。異国の地で日本を好きだと言ってくれる人との出会いがどれほど温かく誇らしいものか私たちは良く知っています。−ということを英語でぱぱっと話せたらカッコイイのだが…英会話スキルの低さと表現力の乏しさがもどかしかった。


 しかしこんなこともあろうかと海外旅行には日本画の絵葉書を持ち歩いている。そこにメッセージを書いて渡したかったのだがこの時はホテルに置いてきていた。私たちはそれを明日持ってくるからと伝え、翌日の彼女の出勤時間を確認して別れを告げた。明日は休み?仕事?の問いに対して両方頷いていたような…オープンからクローズまで居ると言っていたが明日のことなのか普段のことなのか…お互いの不慣れな英会話に一抹の不安を感じつつその日は店を出た。

 そして翌日。彼女の出勤時間に合わせて店へ行ったが彼女は居ない。他の店員に尋ねると休みとのこと。不安的中、会話は不成立だった。私たちはその日が帰国日だったので仕方なく連絡先とメッセージを書いたハガキを店員に預け、後ろ髪を引かれる思いで帰国した。


 数日後、日本のアニメグッズで埋め尽くされた彼女の部屋の写真とともに、感謝のメールが届いた。それから私たちは時々英文とスペイン語の混ざったメールでコーヒーや旅行の話をしている。どこまで分かり合えているのか怪しいけれど、彼女の好奇心がもたらしてくれた出会いは、私にとって大切な宝物となっている。彼女が日本に来るときを心待ちにしつつ、スペイン語の勉強も始めようかと思う今日この頃である。

(2015年1月渡航)

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