サリーナス・グランデス(北部アルゼンチン①)

 私の塩湖デビューはアルゼンチンのサリーナス・グランデスだった。ボリビアのウユニ塩湖にも行ってはみたいのだが機会に巡り合わなかった。高山病を経験しているからウユニ塩湖ほどの高地に対して腰が引けているというのもあるかもしれない。

 スペイン語で「大きな塩」というシンプルな名の塩湖は、アルゼンチン北部、ボリビア、チリとの国境に近い場所にある。南米にある三つの塩湖のうち、サリーナスは三番目の大きさだ。(一番はボリビアのウユニ塩湖、二番はチリのアタカマ塩湖)

 昔この辺り一帯が地殻変動で海から隆起してできた塩湖だ。

 

 標高3500mを超えるとサボテンも生えないらしい。教えてくれたドライバーは運転席でコカの葉をガムのようにくちゃくちゃ噛みながら教えてくれた。コカの葉は高山病の予防になるので北部の標高が高い都市ではビニール袋に無造作に詰められた状態で売っている。勧められたが流石に生の葉を噛むのは遠慮してお茶をいただいた。

 サリーナスグランデに向かう道は途中で4170mの峠を超える。峠の天辺で車を降りると足元がおぼつかない。空気が薄いので少しだけ貧血気味になっていた。思い切り空気を吸い込んでも物足りない、妙な感覚だった。

 峠を境に車は徐々に降り始める。やがて山と山の間に不意に白い大地が見えてきた。枯草と砂利だけの茶色い大地の向こう側に真っ白い大地が広がっている。太陽の光が反射してそこだけが雪原のように輝いていた。

 

 塩湖の感触は意外と硬く、凍った氷雪を踏むときに似ている。足元には、直径60㎝ほどの六角形が規則的に連なり模様を描いている。物体が冷却され結晶化する際に生じる柱状節理という現象らしく、ウユニ塩湖でも見られるし日本なら福井県の東尋坊の岩群が有名らしい。ちなみにアイスランドのブラックサンドビーチの崖も柱状節理で、崖一面が彫刻刀で規則的に削ったような芸術的な様相をしていた。


 ここでは採塩場も見ることができる。長方形の穴に雨水を溜め蒸発させて塩を作るのだそうだ。プールに溜まった水はクリスタルのように透き通った水色で、白く広がる大地とのコントラストが美しい。

 そのプールの水を取ってほんの少しだけなめてみた。しょっぱさのあとに強烈な苦みが広がる。えぐみというか、良く言えばコクというか、とにかく舌の両脇がビリビリと痺れるような味だ。予想の斜め上を行く強烈な味に喉の奥から変な声が出た。これが塩の本来の味なのだろうか。遠くには採取した塩の山がいくつも見えた。


 近くの事務所兼休憩所でトイレを済ませ土産物屋を覗いた。ここで採れた塩の塊を削って作ったリャマや動物などが売られている。洗練されているとは言い難いが、手作りの素朴な味わいが気になってひとつ購入した。

 雨季ならばウユニのようにはいかなくとも水鏡が見れることもあるらしい。今回は乾季だったため水の張った鏡張りの様子は見ることができなかったが、白く輝く大塩原の迫力も劣らずに素晴らしかった。

(2017年渡航)

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