　メキシコへ行く前、私の海外渡航歴は韓国と台湾とグアムだけだった。目がものすごく悪くコンタクトもメガネにも不自由を感じていたので長旅など考えたこともなかった。それが思い切ってレーシック手術を受けた途端、何かから解放されたように世界地図を見るのが楽しくて仕方なくなった。そしてそのころ付き合い始めた相方と旅行計画を立てることになったのだが、どうせアジア以外へ行くなら今まで出来なかったことや、なんならリゾートとやらも楽しんでみたい。（目に砂が入ると死活問題なので海などもっての外だった）そこで選んだのがメキシコシティとユカタン半島のカンクンへの旅だった。

　初めて歩くアジア以外の街は目にするもの全てが新鮮で斬新で賑やかで、車の窓から眺める街並みに飽きることはなかった。車間一つとっても日本の当たり前なんて存在しないのだから、世界はおもしろいなと思った。

　メキシコシティの近くにあるテオティワカンへの観光は現地のツアーに参加することにした。事前に知識を入れていたとはいえ、ガイドさんの説明は分かりやすくて参考になったし他の参加者から出る質問に感心したりもした。

　月のピラミッドと太陽のピラミッドは正確に位置を計測した上で建設されていて、特に月のピラミッドは背後の山に沿うように同じ形を模して作られている。その背景と立ち位置から、月のピラミッドは宗教的行事を行うために建てられたと言われている。

　その大きさに比例して当時の人々の自然への崇拝の深さを感じると共に、その昔にどうやって大きさと位置を計測しこれほど完璧な物を創り上げたのか説明を聞いた後でもイマイチ信じられない。出来ることなら設計時から建立までこの目で実際に見てみたいと思う。

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　カリブ海に突き出たユカタン半島には、マヤ文明時代の遺跡が点在している。マヤ文明といえば、2012年12月に世界が滅びるという予言が話題になったこともあり、いつか行ってみたいとずっと思っていた。半島の先端にあるビーチリゾート・カンクンを拠点に、マヤ文明の遺跡群・チチェンイッツアへのバスツアーに参加した。

　バスで3時間、パイナップルの葉の形に似た、竜舌蘭という植物の畑に飽きてきたころ国立公園に到着した。ちなみにメキシコで有名なテキーラはこの植物を蒸し焼きにして発酵、蒸留して作られる。

　公園に入って間もなく、四角錘のピラミッドが現れた。頂上に神殿を配したこの建物は暦のピラミッドと言われている。

　一面ごとの階段数が91段で×4面、さらに頂上の神殿を足すと365段となり、地球が太陽の周りを回る周期を表している。さらに1面あたりの階層数は9段、真ん中に階段があり分断されているため倍の18段となり、これはマヤ歴の1年（18か月と5日）を示している。

　訪れた日は秋分の日の2日ほど前だった。太陽が西に傾く時間になると、ピラミッドの下部にある、飛び出すように作られた蛇の頭部の石像へ向かってジグザグ模様の影ができ蛇の頭部と繋がり、大きな蛇がピラミッドの縁に沿うように現れる。このジグザグ模様の影はピラミッドの階段上の部分の横から射す陽の光がつくる影だ。ピラミッドにマヤ神のククルカン（羽毛の生えた蛇）が降臨する瞬間を描いたイベントだ。この現象によって秋分と春分をも知ることができ、農作物を作るために重要な役割を担っていた。

　同じ敷地にあるカラコルは天文台のピラミッド。ここから天体を観測して星の距離や太陽の動きなど、現代とほぼ変わらない精度の解析を行っていたと言われている。ククルカンの降臨もほぼ正確に春分と秋分を把握していたからこそできた技術だ。未来の話なのかと戸惑ってしまうほど、マヤ文明は緻密で高度な技術を持っていた。そうした技術で弾きだされた地球滅亡の日付が2012年の12月だったのだが、これはマヤ文明の「歴史は繰り返す」という宗教観の中のひとつの区切りだと言われている。

　予言はさておき、もしマヤ文明が滅びなかったら、今ごろ人類は宇宙に住んでいたのかもしれないと空想したくなるほど興味深い観光となった。

（2012年9月渡航）