ケツァールの棲む国(コスタリカ)

 「幻の鳥」と呼ばれているケツァールという鳥をご存知だろうか。手塚治虫氏の代表作「火の鳥」のモデルになったといわれる美しい鳥だ。

 体の色は宝石のような透明感のある鮮やかなエメラルドグリーンで、お腹の部分だけはルビーのように真っ赤な色をしている。まるで空飛ぶ宝石のよう。そしてつぶらな黒い瞳はぬいぐるみみたいで愛らしい。

 飛び方がまた神秘的で、体の倍はある長い尾をひらひらと人魚のように揺らしながら、まるで水中を漂うように木から木へと飛び移る。薄い羽衣が風に煽られて舞う様子に似ている。

 

コスタリカの隣のグアテマラの通貨単位はケツァールと言い、国鳥であるこの鳥から取られている。現在は環境悪化により個体数が減っているためグアテマラでも滅多に見ることができないと聞いた。

 実はケツァールは中米各国に生息しているらしい。が、個体数はコスタリカが断トツで多い。それはコスタリカが国を挙げて生植物の保護を進めている環境先進国だからだ。国土の1/4を占める国立公園や自然保護区では、全世界の5%の生植物が生息しており、特に鳥類は10%、約900種類が確認されているという。中でもケツァールは空気汚染に弱く、綺麗な空気と水はもちろん、逞しい樹木が育つ環境でないと暮らせないのだそうだ。

 だがそんな生き物の楽園と言われるコスタリカでさえ、ケツァールが生息している場所は限られている。「幻の鳥」と言われる所以だ。

 

 コスタリカはコーヒー豆の栽培も盛んに行われている。パナマとの国境で作られているゲイシャ種の豆は今や全世界的に高級種として有名だ。香りは柔らかく苦味と酸味のバランスがちょうど良い。口の中に独特な風味の残るところが印象的だった。コーヒーもまたケツァールと同じ、綺麗な空気と水、樹が育つための土が必要だろう。


 私たちがケツァールの森を訪れたのは大晦日、気温は日本の初夏くらいで天気は快晴だった。濃い水色の空、トロピカルな赤い花、そして瑞々しい緑、色が溢れた森の中で群を抜いて気高く美しいケツァールを見つけたときの喜びは忘れられない。息を呑むという言葉を実感した瞬間だった。

 

 ケツァールが住める国、コーヒーが美味しい国、きっと私がこの国の住人だったらそれらを誇らしく感じるだろう。自然が溢れ生き物が住みやすい場所というのはきっと人間にとっても居心地の良い場所なのだと思う。

 いつまでも楽園であって欲しい。そしていつかもう一度行きたい、そう思う国の一つだ。

(2017年渡航)

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