第6話 クラス委員

「最近、学校に行くのが楽しそうだね。何かいいことがあったのかい?」


家で夜ご飯を食べていると、叔父さんに聞かれた。


…そんなにわかりやすかっただろうか。


というか、学校に行くのが楽しみな訳じゃない。


学校から家に帰る時に寄り道して猫と遊ぶのが楽しいだけだ。


だが、そのまま言うときっと叔父さんは悲しむだろう。


叔父さんは猫アレルギーだから、猫を飼えない。


そのことを残念には思うが、別に叔父さんは悪くないし、恨んでもいない。


だが、それでも叔父は自分のせいで猫を飼ってやれないと気に病むだろう。


そもそも本当の親というわけでも無いのだから、そこまでする義理はないというのに。


だから私は、叔父に猫が好きだと言ったことはない。


「えぇ、お友達が出来ましたわ。」


彼の事が心に浮かぶ。


言動がとても子供っぽいが、猫を飼えない私のかわりにミケランジェロを飼ってくれたので悪い人では無い、と思う。


すると、それまで話を聞くだけだった叔母さんが急に口を挟んできた。


「その友達って…もしかして、男の子?」


ギクリ。


別にやましいことは無いのだが、私はなぜだか動揺してしまった。


叔母さんはそれを見逃さなかった。


「まぁ〜!…あなた!アリスちゃんに恋人が!」


「兄さんに報告しないと!」


「やめて下さいっ!…別に、あの人とはそんなんじゃありませんわ!」


弁明しようとしたが、私の慌てた様子を見てさらに調子付いた叔父と叔母に質問攻めをされ、それは私が二階の自室に逃げ込むまで続いた。


______________________


確かに、連絡先を交換した以上、定期的に来るんだろうなと思っていた。


「伊藤さん。」


俺はそれを分かっていてあの時スマホを出したのだし、

それは構わなかった。


「伊藤さ〜ん。」


だが、まさか、


ほぼ毎日来るとは…。


「伊藤さん、クラス委員に推薦されてますけど〜。」


いや、別に良いんだけどね?


そこまで高い頻度で来られると、喋ったり顔を見る時間も増えるわけで。


つまりお嬢様のことを意識しちゃうと言うことである。


「はぁ〜。」


自分のチョロさにげんなりする。


「黙ってるとクラス委員になっちゃいますよ?」


「謹んで断らせていただきます。」


黙ってるだけでクラス委員にされるとか、怖っ。


俺みたいなやつが推薦されるとか、このクラス終わってんな。自分で言うのも変だけど。


「では、立候補無し、推薦も断られたのでじゃんけんで決めます。」




男子共が後ろのスペースに集まる。


誰も彼もが表情を固くしていた。


まぁ、クラス委員なんてやりたくないしな。


だが、俺だけは気楽そうな表情で笑っていた。


―――――このゲームには、必勝法がある。


いきなり最初はグーを言うことで相手を焦らせ、思考力を奪う。


そして俺はパーを出す。思考力を奪われた奴らが出す手は、当然最初のまま…そう、グーのままというわけだ。


あとは仕掛けるタイミングだが…。


窓に近かったやつが暑かったのか頭を掻いた。


今だ!!


「さ「最初はグー!じゃんけんポイ!」」


妨害された俺は動揺してグーを出した。


ほとんどのやつがグーを出したが、俺の横にいる、小嶋だけはパーを出していた。


…そういや、奴にこの必勝法を教えたことがあった。他に必勝法を知っている奴への対策も喋った。


負けた。だが、まだだ。一抜け出来なかったのは残念だが、流石に最後まで残ることなんて…。




――残り7人。


まだだ。まだ焦るような時間じゃ…。




――残り3人。


やべぇー!だが、見せてやる。俺の最終奥義!


「俺はチョキを出す。」


宣言!


他の二人は表情を険しくした。


この程度で動揺するところを見ると、勝負慣れしていないのが伺える。


まぁここまで残ってる時点でツキに見放された負け犬なんだろう。


勝ったなガハハ


「最初はグー」


俺ば勝ちを確信しながら、グーを作る。


「じゃんけんポイ!」


俺は宣言通りチョキを出した。


二人はグーを出した。


負けたあああ~!


俺が絶望していると前期クラス委員があっという間に黒板に俺の名前を書いた。


「頑張れよ、後期クラス委員。」


「クラス委員さん、よろしくお願いしまーす。」


コイツラ…。


ぶん殴ってやろうかと思ったが、今の俺にはそんな元気はない。


席に戻ると女子のクラス委員を決めるところだった。


「立候補する方〜。」


「……」


係決めあるあるだよな。


誰も立候補しない。


「では、推薦したい人いますか~。」


「……」


再びの沈黙が教室を覆った。


これは男子と同じでじゃんけんコースかな、と思ったとき、手が上がった。


手を挙げたのはお嬢様だった。


「私がやりますわ。」


クラス委員が確認のための質問をする。


「では、アリスさんがクラス委員をすることに反対な人、いますか~。」


何だその質問。


俺のときは無かったぞ。


美人だからって丁寧な対応しやがって。


俺が世界の不平等に嘆いていると、黒板に『上田アリス』と書かれた。


「では、クラス委員になってくれた二人に拍手を。」


パチパチパチ。


拍手が湧き上がった。


なってくれた、じゃなくやらされた、だろ。


はぁー面倒くせ。


しかもお嬢様と一緒だし。


さらに意識しちゃうだろ。

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