第3話 捨て猫

「だから!それでは質問の答えになってないと言っているでしょう!一体貴方は誰ですの!」


「俺だ」


3回目の自己紹介でやっと諦めてくれたようだ。


彼女は息を荒くしながら「もういいですわ…」

と言った。


今だ!


「伊藤航、上田さんと同じクラスです。宜しく。」


「なんで今言うんですの!」


お。ツッコんでくれた。意外とノリがいいのかもしれない。


「それより、この猫は?」


彼女は溜息をついてから俺の質問に答えてくれた。


「見ての通り捨て猫ですわ。こんなに可愛いのに捨てるなんて…!」


確かに捨て猫のようだ。『拾ってください』と書かれたダンボールの中に猫がいる。


だいぶ小さいしまだ子猫だろう。


「でも良かったな、こいつもいい飼い主が見つかって。」


いい飼い主とはお嬢様のことだ。


あんだけ可愛がってたんだし飼ってくれるだろう。


そう思い彼女の方を見ると、お嬢様はとても悔しそうな顔をしていた。


「もしかして、飼えないのか?」


「家族が、猫アレルギーで…」


マジかぁ、でもそれなら。


「じゃあ俺が飼うよ。」


その言葉にお嬢様は驚いた様だった。


「い、良いんですの?」


「良いんですの。」


俺もお嬢様言葉で返すと彼女は一瞬嫌そうな顔をしたが、「ありがとうございますわ。」と言った。


「じゃあ、そういうことで。」


言いながら俺が猫入りの箱を持ち上げる。軽いな。


「良かった…。」


声につられてお嬢様の方を見ると、彼女は少し悲しそうな笑顔で俺の持っている猫を見ていた。


別れが寂しいんだろう。


「そんなに悲しいならたまにこの猫を見に来ればいいだろ。」


お嬢様はまた驚いた様な顔をした。


「良いんですの?」


「良いんですの。」


「猫を拾ってくれた上、見に来ても良いなんて…なんとお礼を申し上げればいいのか…」


「良いよ、俺の勝手だし。」


「それでも、ありがとうございますわ。」


なんかすげえ感謝されてる。


というか猫を見るためとはいえ男の家に行くとか結構不味いと思う。俺もダメ元で誘ったし。


このお嬢様はとても猫が好きなんだろう。


それなら俺の家に来たら喜ぶだろうな。


「だから礼はいいって。…それじゃ。」


お嬢様に挨拶して俺は空き地を出た。


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