存在証明 3
003
小屋を探索したその翌日。 下校してすぐに、僕はある資料が入った封筒を持って、英美里さんの家へ赴いた。
「……来たか」
英美里さんは、髪をヘアゴムでまとめた状態で、僕を待っていた。
「驚いたぞ、いきなり会って話をしたいなんて電話が来たときは」
今日は月曜日。本来であれば師匠の家に訪れる日ではなかったのだが、師匠は快く僕を迎えてくれた。
「で? 話したい事ってあの小屋の事だろう? どうだったんだ? 小屋の探索は。……いや、君の顔を見れば大体の察しはつくんだが……まぁ、話してすっきりすることもあるから、遠慮なく話すといい」
「ありがとうございます。先に、小屋の事なんですが、あの小屋自体に、現実を逸脱している異常な点は何もありませんでした。だからこそ、嫌だった、っていうのもありますけど」
「嫌だった? それはどういう……、現実を逸脱していない異常があった、ということか?」
「……そうですね――」
僕は師匠に昨日見たことをざっくりと説明した後、持ってきた封筒をテーブルにおく。
「これは?」
「ここ数ヶ月の、未成年の、それも少女の行方不明者名簿です」
師匠は封筒から資料を取り出し、パラパラとめくってギョッとした。
「おいおい。名前はおろか、失踪した日から顔写真まであるじゃないか。 一体どうしたんだこれ」
師匠の質問に、僕は顔を横にそらし、
「……知人に、警察や探偵がいるんです。その人たちに情報を提供してもらいました」
「…………。探偵はまだしも、警察は職権濫用だろうこれ……」
――ばれなければ良いんですよ。
「……その資料の五ページを見てください」
師匠は言われた通りに、五ページを開く。そこには兵藤葵という名前の女の子の情報が載ってあった。その娘は綺麗な黒髪で、雪の様に白い肌を持つ女の子だった。
「
「はい、あの日、雪道に佇んでいた、女の子です」
「行方不明者……、霊……。なるほど、話が読めてきた。つまり君は、こう言いたいのだろう? 『この少女は誘拐されあの小屋で殺された。そしてこの少女は怨霊となり自分を殺した人間を殺して欲しいと願っている』だから君を、まだ犯人がいる小屋へ導いた……と」
何故だろう。真剣な面持ちをしているのに、何故この人から『ふふん、私は全て分かっている。すまないな君の見せ場を奪ってしまって……』という感情が視えるのだろうか。
僕は咳払いし、たっぷり間を空けてこう言ってやった。
「――違います」
師匠はあからさまに「ええ〜……」という表情で天を仰いだ。
「いえ、僕も師匠と同じように、その行方不明になった子は誘拐され、……あの小屋で殺されたと考えています。でもそれは論点がずれています。今回の謎は、なぜ上着を掛けれたかですよ? 師匠は、なんというか……、もうちょっと挫折を味わった方が良いですよ」
「うるさいなー。そんなのは学生時代にグルメになるほど味わったよ!」
師匠はため息を吐き、「で? このうんちく魔女に挫折を味わわせたんだ。 それなりの君の考えがあるのだろう? それなりの」と不機嫌を隠そうともせずに、師匠は僕に続きを話すよう促した。
それでは話すとしよう。 僕が導き出した、その答えを。
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