第8話 泥棒と面談

女を家に連れ帰ってから一時間後


「あれ…?ここは?」


泡を吹いて倒れていた女は、ようやく目を覚ました。

見慣れない天井に、見慣れない部屋。

困惑して辺りを見回した女は、とある人物を見て硬直する。

しかし…


「ひっ!」


すぐに理解が追いついたのか、後退り姫華から距離を取る。

ビクビクと怯え、逃げようにも下手に動けない女は、恐ろしさのあまり歯をガチガチと鳴らす。

なにせ、姫華が今何をしているかと言うと、包丁を研いでいるのだ。

人を喰ったということで有名な奴の家で盗みをはたらこうとしたら見つかって、気絶した隙きに家の中に入れられてしまった。

そして、ソイツは今包丁を研いでいる。

次に何が起こるかなんて、容易に想像できてしまう。


「起きたか…」


一言だけ話しかけると、また黙々と包丁を研ぐ姫華。

その姿は、ただ包丁を研いでいるだけだというのにとても恐ろしく感じ、すぐにでも逃げ出したくなるような雰囲気を醸し出している。


「どうして私の水瓶の水を盗もうと思ったのかしら?欲しいなら一言言えばいいのに」

「ご、ごめんなさい!」


姫華に盗みを働いたことを指摘された女は、高速で土下座の体制にはいる。

その速度は、とても非戦闘員の女が出せる速度では無かった。

そんな女を見て、姫華はもう少しいけると思ったのか、さらに追い打ちをかける。


「それに、私の家からよくモノを盗んでいるのはあなたですよね?どうしてくれるんですか?ちゃんと弁償してくれるんでしょうね?」

「もちろんです!もちろん弁償します!!」


女は大慌てで弁償することを約束した。

これまで盗んできたものを弁償するとなると、かなりのモノを渡さなければならないが…この女はどうするつもりなのだろうか?

今まで姫華から盗んできたものを思えば、ちょっとやそっとでは足りない。

姫華もその事は理解している。

そのため、しっかりと恐怖を植え付けることにした。

姫華は近くに置いてあったかごを開けると、なかからマムシを取り出す。

マムシといえば猛毒をもつ毒蛇の一種だ。

そんなマムシを取り出した姫華は、おもむろにマムシをまな板の上に生きたマムシを乗せる。

そして…


「ひっ!?」


包丁を振り下ろし、マムシの首を落とした。

そして、まだ動いている頭を指で掴むと、そのまま口の中へ放り込む。

姫華の口の中では、血の味と毒の味が広がり、マムシ特有の美味しさを出していた。

もちろん、そのというのは姫華基準なので、あまり当てにならない。


「あなたも食べるかしら?ベビの肉」

「い、いえ!結構です!!」


女は壁を背にしながら首を振って『いらない』と叫ぶ。

首を切り落とされてもなお、ウネウネと動き続けるベビの体を見れば、誰だって『いらない』と言うだろう。

しかし、それは正常かつ常識的な現代人という前提がいるが…


「そう。じゃあ新鮮なうちに食べてしまいましょう」


姫華は首の断面を口まで持ってくると、そのまま口の中へ入れ、マムシを食い千切る。

まるで、細長いスルメでも食べているような食い千切り方をする姫華を見た女は、顔を青くして目を瞑っている。

体中から汗が吹き出し、服を濡らす。

体内の水分をすべて出すいきおいて汗をかいているのを見た姫華は、『流石にやり過ぎたか』と思い、コップに水を注ぐ。


「飲みなさい。あなたが欲しがっていた山奥の水よ」


そう言って、さっきまで女が寝ていた場所に水の入ったコップを置く。

しかし、女はその場から動こうとせず、全くコップを取りに来ない。

仕方なくコップを持って女のもとまで行くと、ようやくコップを受け取って水を飲んだ。


「…これ、毒とか入ってないですよね?」

「もちろん」


何故か飲み終わった後に毒が入っていないか聞いてくる女。

当然何も入れておらず、害になるようなものはおろか、そうでない物も入っていない。

ごくごく普通の水だ。


「えっと…その、すいませんでした!」


女は再度土下座をして謝罪してくる。


「山奥でキレイな水を持ってると聞いて、つい魔が差してしまって…決して嫌がらせとかそういうつもりじゃ無かったんです!」


言い訳をして、なんとか許してもらおうとする女。

しかし、この女のステータスを見ている姫華からすれば、言い逃れをしようとしている事は百も承知。

そこで、姫華はある提案を女に持ちかける事にした。


「あなた、昔人を殺したわね?」

「っ!?」


突然の質問に息を呑む女。

この女は確かに人を殺している。

それも、未だに未解決事件として集落で犯人探しが続いている殺人事件の犯人だ。

姫華の確信を持った質問に女は目に見えて動揺している。


「あの殺人事件の犯人なんでしょう?ステータスを見たから知ってるわよ」

「……勝手に、《鑑定》したんですか?」

「ショック死してないか調べるためにね。…ああ、気にしないで。私は私の恩恵を多大に受けているのに、未だに態度を改めない集落の人間に手を貸すつもりはないの。言いふらしたりはしないから安心して」


終始ニコニコしながら話していたせいか、姫華はかなり警戒されているようだ。

しかし、秘密を知られ、弱みを握られている以上、姫華の言うことを聞くしかない。


「それで…私に何をしてほしいんですか?」


しっかりと警戒したまま姫華の要件を聞く。

警戒心MAXで睨みながらの女と違い、姫華はずーっとニコニコしている。


「簡単な話よ。もうここには来ないでちょうだい」

「……それだけですか?」

「うん。それだけ」


姫華が出した条件はただの接近禁止。

弱みを握っている割には…という話に、女は警戒心を緩めるどころか、さらに強めている。


「そこまで警戒しなくてもいいでしょ?私があなたになにかしたかしら?」

「……後ろから声をかけてきて、何か魔法をかけてきた」

「魔法?………ただ圧を掛けただけなんだけど?」

「圧を掛けた?睨まれただけで私は気絶したの?」

「うん」


ただ睨まれただけで気絶してしまった事に少し落胆した女は、溜息をついて下を向く。

そこでようやく自分の変化に気が付いたようだ。


「…私のズボンは?」

「……汚れていたので、変えさせて貰いました」

「汚れた?どうし……まさか…」

「まあ…そのまさかですよ」


自分の身に何が起こったのかを理解した彼女は、顔を真っ赤にしてびしょ濡れのズボンと下着を受け取った。

後日、ものすごく複雑な表情で姫華ズボンと下着を返しに来たのは言うまでもない。


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