第6話 ネームドへ

山頂付近


「この辺りならよく見えるかな?」


一本だけ異様に高い木を見つけた姫華は、その木に登り、周囲の様子を確認する。

しかし、《ネームド》の姿も、《ボス》の姿も見つからない。

不思議に思った姫華が首を傾げかけたその時、


ドゴォォォォォン!!


上空からとんでもない爆発音が聞こえ、当たりが閃光に包まれた。


「上!?」


閃光が収まるのと同時に、姫華が空を見上げると、オレンジ色を中心に緑や黄色、赤などカラフルな鳥が落ちてきているのと、そのはるか上空、太陽に重なるようにナニカの陰があるのを見つけた。


「あれが《ボスモンスター》……クソッ、眩しくてよく見えない」


太陽を直視した結果、目をやられてしまった。

日光に目をやられた一瞬。

その一瞬の隙に《ボスモンスター》は居なくなっていた。


「見れなかった…そうだ《ネームド》!」


空を見回すと、カラフルな鳥は既にかなり落下しており、見つけた頃には全身をしっかりと確認できる場所まで落ちていた。

カラフルな鳥はそのまま落下し、落下地点の木を薙ぎ倒した。

落下地点は姫華からそう遠くない場所。

姫華はその事を確認すると、すぐに木から飛び降りて《ネームド》の元へ走った。


(できれば《ボス》の姿も見ておきたかったけど…空を飛ぶモンスターであることは間違いないから、きっと翼を持つモンスターだろうね。この近くに居る翼を持った《ボスモンスター》…だいぶ絞れるね)


姫華はあまり集落の近くから離れないが、たまにやって来る外部の人間との情報交換で《ボスモンスター》の正体を探ることができるだろう。

そうすれば、わざわざ集落を出ずとも《ボスモンスター》の情報を得られる。

畑仕事や泥棒対策をしなくてはならない姫華にとっては、外部の人間はとても重要な存在だ。


「次はいつ来るんだろう…」


いつ来るかは分からない。

もしかしたら明日かもしれないし、何ヶ月後かも知れない。

もちろん、《ボスモンスター》に勝てるほど姫華は強くないので、あくまで情報が欲しいだけ。

急ぐ必要ないが、熱が冷める前に来てほしいのが本音だ。

そんな事を考えている間に、姫華は《ネームドモンスター》が落ちた場所へやって来た。


「こいつが《ネームド》…なんか、某ポケットなモンスターに出てくるホウ○ウみたい」


そこに居た《ネームドモンスター》は、まるで某ポケットなモンスターのゲームの、タイトルが『金』のパッケージに描かれているキャラクターのような見た目をしていた。


「とりあえず《鑑定》してみるか…」


姫華は《ネームドモンスター》に《鑑定》を発動する。

本来、《ネームドモンスター》に《鑑定》というのは自殺行為でしかないが、先の《ボスモンスター》との戦闘で瀕死となった状態であれば、特に問題はないだろう。

そして、この《ネームドモンスター》のステータスを見た姫華は、目を見開いて驚いた。


『名前: 無し ♀

 種族: 不死鳥

 位階: 129

 総合戦闘力: 684,000

 スキル: 無し

 称号: 《強者》《ネームドモンスター》《不死鳥》

 二つ名: 《火の鳳ひのとり》        』


「戦闘力68万!?何この化け物!?」


《ネームドモンスター》の正体は不死鳥。

しかも、戦闘力が68万という化け物だ。

姫華の倍以上の戦闘力を持つこの《ネームドモンスター》―――改め、《火の鳳》。

これでも68万というのは《ネームドモンスター》の中では弱いほうだ。 

しかし、《火の鳳》は決して弱い訳では無い。

不死鳥という種族は元々戦闘力が低く、長い寿命と死んでも復活するという特性から殺されても全く問題ない。

つまり、弱いのではなく強くならない。

強くなる理由が無いのだ。

死なないために強くなるのだから、死ぬことが無ければ強くなることもない。

そこで、姫華はある疑問を抱いた。


「不死鳥って、一度殺したらその時点で《ネームド》を奪えるのかな?」


本来、《二つ名》は他の《二つ名》持ちを殺すことで得ることができる。

なら、不死鳥の場合はどうだろう?

不死鳥は殺せるには殺せるが、いずれ復活する。

ならば、完全には死んでいないという事になる。

その場合、《二つ名》の所有権はどうなるのか?

その事を疑問に思った姫華は、殺して確かめることにした。


「恨むなら、自分の運の無さを恨みなさい。それに、生まれ直したら私が愛情深く育ててあげるわ」


そう言って、異空間から取り出したハルバードを不死鳥の頭に振り下ろす。

戦闘力には倍以上の差があるが、この破壊力の攻撃をまともに喰らえば《ネームドモンスター》といえどタダでは済まない。

一撃で不死鳥の頭をかち割る事に成功した。

すると、姫華の頭の中に声が響く。


《ネームドモンスター、“火の鳳”を討伐しました》

《二つ名の所有権を獲得しました》


「あっ、これで所有権が手に入るのか」


どうやら、不死鳥は一度殺すとそれで死亡判定となり、《二つ名》の所有権を得ることができるようだ。

もし、本当に死ぬまで所有権を得ることができなければ、現段階で不死鳥を完全に殺す方法が存在しないため、入手不可の《二つ名》となっていただろう。

すると、姫華の中にまた声が響く。


《二つ名作成中…二つ名作成中…》


どうやら、今姫華の《二つ名》が作成されているようだ。 

同じような言葉が何度か繰り返された後、『ピーン!』という電子音に似た音が響き、また声が響く。


《完了しました。あなたの二つ名は “戦斧の魔女”です》


「……え?」


姫華は、与えられた《二つ名》を聞き、そんな声を漏らす。

そして、確認のためステータスを開くと…


「…え?……うん?…はぁ!?」


今度は自分のステータスを見て変な声を出した。


『名前: 胡水姫華 ♀

 種族: 人間

 位階: 90

 総合戦闘力: 528,000 +275,570

 スキル: 覚醒 NEW(身体能力上昇+魔力開放)威圧 NEW ■■■■ NEW ――その他省略

 称号: 《ネームド》 NEW《魔女》 NEW

 二つ名: 《戦斧の魔女》NEW』


「はああああああああああああ!!?」


姫華の叫び声が木霊する。


「え!?プラス27万!?ええっ!?」


ただでさえ高かった戦闘力が倍以上に増加し、姫華は困惑する。


「え?《ネームド》になっただけだよ?え?プラス27万?えっ?えっ?」


八年間の努力の末、辿り着いた戦闘力は25万。

しかし、《ネームド》になったことで増加した戦闘力は、驚異の27万。

まるで、努力を否定するかのような圧倒的な戦闘力の伸びに、姫華は何度も『え?』という言葉だけを連続して発する。


「嘘でしょ…私の八年間は何だったの?これなら最初から《ネームド》を積極的に狩ればよかった」


当然、まともに戦って勝てる訳がないが、今回のように《ボスモンスター》との戦闘後に瀕死のところを狙えばいい。

そうなれば、簡単に戦闘力を上げることができただろう。

その事を悔いる姫華。

以前にも傷付いた《ネームド》を見たことがあるが、今回よりも遥かに元気で暴れていたので手を出せなかった。

だが、あの時倒しておけばよかったと今更思うようになった。

しかし、そんな後悔をしても今更だ。

さらに、戦闘力以外にも気になる部分があった。


「スキルの《覚醒》と《威圧》はまあ分かるけど…これ何?」


《■■■■》


詳しく調べようとしても黒塗りの内容しか出てこず、なんのスキルなのか全く分からない。

そして、発動しようにもうんともすんとも言わない謎スキル。

姫華は様々な手段を用いてこのスキルを調べようとしたものの、何一つ情報は得られなかった。


「これも外部の人間に聞くしかないわね…」


自力で調べる事を諦めた姫華は、他のスキルの効果を確認することにした。


「《覚醒》は…まあ、《身体能力上昇》と《魔力開放》を合成したスキルみたいだし、パワーアップスキルだろうね」


《身体能力上昇》は、その名前の通り身体能力を一時的に上昇させるスキルで、戦闘力を上昇させる効果もあった。

しかし、発動すると体力の消耗が激しくなるというデメリットも存在する。

そのため、いざという時の切り札として使われる事が多い。

また、《魔力開放》は《身体能力上昇》の魔力バージョンであり、日頃から魔力を多用している人にとっては《身体能力上昇》よりも優秀なスキルだ。

何故なら、魔力を多用している人は、他の人に比べ保有魔力が段違いに多く、人によっては《魔法》を専門としている者よりも多い魔力を持っている場合もある。  

そういった人物にとっては、体力を消耗することなく戦闘力を上昇させることができるスキルとしてとても優秀だ。

ただし、《魔法》を使う場合や、魔力を消費して何かしらのスキルを使用する場合は使用を控える事もある。

《覚醒》というスキルは、その二つのスキルを合成したスキルのようだ。

効果をそのまま考察するのであれば、体力と魔力を消費して戦闘力を大幅に上昇させるスキルだろう。


「《威圧》は言わなくても分かるね。多分、名前の通りでしょ?…それよりも、この《魔女》って言う不名誉な称号の方が気になる」


《魔女》

二つ名にも使われている魔女という単語。

世間的なイメージでは、悪魔と契約し、魔法を使えるようになった女というものだ。

ヨーロッパでは《魔女狩り》という行為が行われるほど、あまり良い印象は持たない単語。

昨今のアニメや漫画の影響で、多少印象は良くなっているだろうが……モンスターが存在する世の中では、《魔女》という称号を持つような者とはあまり関わりたくないだろう。


「《魔女》かぁ…うん、《魔女》……ま、まあ?見られなければ良いわけだし?別に知られなければデメリットは無いわけだし?…無いよね?」


念の為称号を調べてみた姫華は、目をパチクリさせる。


『称号:《魔女》

魔女と呼ぶに相応しい女性に贈られる称号。

取得条件:《殺人鬼》《狂人》《悪人》《外道》《同族喰らい》《禁忌を犯せしもの》のいずれかを所持した、総合戦闘力30万以上の女性。

効果:・魔法の効果を高める・魔力の強化

・魔法薬の作成にボーナス効果を付与・神聖脆弱化・ステータスを見たものに対し、《不快》の効果を付与』


「う〜ん……終わった」


メリットもあったものの、デメリットが大き過ぎる。

その事に姫華は絶望し、何が何でも《鑑定》は受け付けないと誓った。





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