第8話-2
「いままでお金なんて服ぐらいにしか使い道がなかったけど、こういう風に美味しいものを食べるのはいいわね。一人だったら、こんな店に来ようとも思わなかった」
シャンパンを飲みながらフォルジナが言う。
「そうなんですか? なんか意外」
意外そうに相槌を打つケンタウリに、フォルジナは続ける。
「そう? 一人の時は……これでもつらい事もあったのよ? 人に隠れて魔獣を食べなきゃいけないから……結構疲れてたのよ」
フォルジナは自分の過去を思い返していた。幼くしてスキルのせいで家を出ることになり、まともな生活を送ることはできなかった。独り立ちした後も待っているのは魔獣を食らう生活だった。
どれほど嫌悪しても、自分の肉体は魔獣の肉を、強い魔素を求める。何度か死のうと考えた。その為に体を拘束して絶食した。だが気付けば全てを引き千切り、目の前には惨殺された魔獣の死骸が転がっていた。涙を流しながらその肉を食らった。絶望しながらその肉を食らったのだ。
いつしか強い魔獣を求めると同時に、自分を殺してくれるのではと期待するようになっていた。ギルドが懸賞金をかけるような魔獣を狙い、戦い、そして結局生き残る。ジュエルビーストもその一環だった。本当は……フォルジナは死に場所を探していたのだ。
そんなフォルジナにとってケンタウリの存在は……この世界にたった一つの光だった。
魔獣料理……まるで自分の為に存在するようなスキル。そんなスキルが存在するなど考えたこともなかった。魔獣を食らうという呪われた宿痾……この世界のどこにも居場所などないとさえ感じていた。だが、魔獣料理というスキルが、この世界に一つだけの居場所を作ってくれたのだ。
世界の理から外れてなどいない。自分もこの世界の一部。生きていてもいいのだと、フォルジナは言われた気分だった。
それは運命だったのだと、フォルジナは思っていた。だから、言おうと……フォルジナは思っていた。それ以外の選択肢はもう、考えられなかった。
「ケンタウリ――」
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