大文字伝子の休日22

クライングフリーマン

大文字伝子の休日22

 午後1時。伝子のマンション。PCルーム。

 伝子はLinenでテレビ会議をしていた。

 「本当にいいの?伝子。」と栞が発言した。予め、メッセージを送って報せてあった、新ウーマン銭湯の件である。

 「理事官の、気の変わらない内に、ね。今回は、あつこは行けないけど。あと、祥子もね。来月出産だし。」

 「誰が来るの?先輩。」と、蘭が発言した。

 「私。増田、金森、大町、田坂、馬越、結城、あかり、早乙女、江南、浜田、安藤、日向、飯星、稲森。」

 「凄い。EITO、ほぼフルメンバーで大丈夫なの?ウチは、私、慶子ちゃん、蘭ちゃん、コウちゃん、文子さん、藤井さん、森さん。副島先輩は来られないから、総勢22名ね。もし、予約出来たら、連絡するわ。」

 会議を終えた伝子に、「ねえ、女子会。一佐とみちるちゃんは行かないの?」と高遠は尋ねた。

 「留守番は必要だ。何かあったら、お前が連絡係になって助けてやってくれ。」 「了解。義姉妹は参加しない訳ね。」

 午後4時。藤井が迎えに来て、伝子は出掛けて行った。

 高遠は思い出した。ウーマン銭湯とは、女性だけの新しい形の銭湯で、完全予約入れ替え制で賑わっていた。プチ温泉気分になれると、SNSで話題になり、利用者は一気に増えた。

 ネーミングやスタイルのアイディアは伝子達が出していて、親しくしていたオーナーが、実は『死の商人』グループのラスボスだった。

 その銭湯はなくなり、新しい銭湯は以前の銭湯のファンの人達が作った、共同経営のスタイルのものだった。EITOも出資している。

 時間が時間なので、大人しい『男子会』は、今回は無しだ。

 高遠は、洗濯物を取り入れると、小説を書き始めた。高遠の本来の仕事だ。今回の 小説は、『着ぐるみ人生』というタイトルで、着ぐるみを着て、イベント等に出る人の目から見た社会の世界観が主軸になっている。

午後7時半。ウーマン銭湯から帰ってきた伝子と夕食を採っていると、みちるから伝子のスマホに電話がかかって来た。伝子はスピーカーをオンにした。

 「おねえさま。大変よ。ウーマン銭湯の男性従業員が亡くなったわ。」「まさか? 『シンキチ』じゃないだろうな?」

 「そのまさか、よ。矢武親吉って、名前らしい。今、結城さんとあかりが急行したわ。なぎさにも連絡しておいた。ジープで迎えに行くって言ってた。」

 午後8時。なぎさが迎えに来た。

 「おにいさま。おねえさまを頂きに、いや、迎えに来たわ。今夜は子作りはなしよ。」

 出掛けた後、「絶対、お義母さんの影響を受けているな。」と、高遠は呟いた。

 午後9時。ウーマン銭湯。

 伝子となぎさが到着すると、結城とあかりが出迎えた。

 「矢武親吉さん、70歳。ベテランのボイラーマンで、その経歴を買われて、前のボイラーマンの後釜として採用されました。井関さんの見立てでは、一酸化中毒による死亡ではないかと。換気扇が壊れていました。」

 「私たちが入っていた時は、ちゃんと働いていたんだよね。」「ええ。別にお湯は温くなりませんでした。でも、私たちの後の組では、途中で温くなったそうです。」

 そこへ、支配人の中込新子が副支配人とやって来た。

 「それで、ボイラーの故障かと思い、あとの組を全てキャンセルさせて頂き、副支配人とやって来たんです。私は支配人の中込です。」

 「どうも、副支配人の下條昭夫です。」「換気扇は?壊れていなかったとか。弄った形跡は無いんですか。」

 「弄った形跡は無かったよ、大・・・行動隊長。」と、エマージェンシーガールズ姿の伝子に井関は言った。

 「おねえさま。病歴は?」「ああ。そうだ。病歴は?支配人。」

 「ウチに来る前のことですが、コロニーの時に、かかったそうです。所謂中等症だったようで、治療薬で完治したと聞いております。」

 「分かりました。井関さん、解剖の結果をEITOにもお知らせ下さい。」「了解した。」

 午後10時。EITOベースゼロ。

 「どうやら、取り越し苦労だったようだな。青山が家族に確認すると、基礎疾患があったようだ。それで、コロニーの後、時々隊長不良を訴えていたそうだ。職場には黙っていたんだな。昔、ワーカホリックという言葉が流行った。あの年代は、しゃにむに働く世代なんだよ。前の事件の平松さんと同じだな。今のところ、です・パイロットからも、使い魔からもアピールはない。不幸な事故だ。解散。」

 「理事官。今日は、ここに泊まります。」と伝子は言った。

 「そうか。じゃあ、大町達は自宅に帰そう。」

 翌日。午後1時。伝子のマンション。

 物部から高遠のスマホにLinenのテレビ電話が鳴った。「女子会の最中でなくて、幸いだったな。」

 「全くです。こういうケースもあるんですね。今度の矢武さんは、前回の平松さん同様、50人の内の一人ですが、『いつなくなってもいい覚悟は出来ている』って家族に話していたそうです。」

 「でも、独居じゃないんだろう?」「それがね、副部長。娘さん夫婦に気兼ねしていたらしいです。娘婿は所謂『マスオさん』で、二世帯住宅だったらしいです。」

 「それで、無理して働いていたという訳か。切ないな。そう言えば、久保田警部補も気兼ねして生活していたな。」「子供が生まれたから、かなり緩和されたんじゃないですかね。」

 「正に、『子はかすがい』か。俺の両親も栞の両親ももう亡くなっているから、他人に気兼ねってのいうのはないな。」

 「そうですね。ウチは変な姑に気を遣ってますけどね。」

 「ふうん、気兼ねしていたのね、婿殿は。」と、背後から綾子が言った。

 「また出た。」「お化けみたいに言わないでよ。」

 その綾子の背後に、編集長が立っていた。「面白い関係ね。高遠ちゃん、原稿どの位?」

 「3割くらいです。7割くらい出来たら連絡しますよ。」と、高遠は渋々約束をした。

 「あそう。あ、そうだ、高遠ちゃん、マスター。辰巳君、婚約指輪買ったそうよ。中山ひかる君のお母さんのお店で。」

 「え?マジ?俺、聞いて無いぞ。」と、物部は憤慨した。

 「だから、今教えたのよ。今日、マスターにいつ話そうか、なんて言ってたから。たまたまスーパーであったのよ。やっぱりまだ言って無かったのね。」

 「あいつ、それで今日は早退したのか。明日、とっちめてやる!」「まあまあ、いいじゃないですか、おめでたい話なんだし。仲人、副部長がやるんでしょ?」「ああ、頼まれている。まあ、いいか。」

 物部はテレビ電話を切った。

 「高遠ちゃん。これ、頂き物だけど、食べたことないだろうと思って、お裾分け。」と、編集長は包みを差し出した。

 「何です、これ。」「和三盆。聞いた事あるでしょ。」「へえ。ありがとうございます。大事に使わせて貰います。」「ところで、大文字くぅんは?」

 「EITOで訓練中。でも、もうそろそろ帰る頃ですね。」

 まるで申し合わせたかのように、伝子が帰ってきた。

 「あら、編集長。いらっしゃい。何だ、ババア。来てたのかよ。」

 「ご挨拶ねえ。」と、綾子は膨れた。

 「伝子。編集長から和三盆貰ったよ。」「いつも、すみません。」「いいのよ。それとね。」

 編集長は、辰巳のことを話した。「そうなんだ。怒ってなかった?何で先に編集長に言うんだって。」

 「うん。怒ってた。」編集長が返事をした時、久保田管理官直通のPCが起動し、画面に久保田管理官が現れた。

 「大文字君。大変なことが分かったよ。犯人は副支配人の下條だった。換気扇は異常無かったが、出入り口のドアを施錠していたんだ。換気扇だけでは、換気が不十分だったから、普段はドアを開放していたらしい。意図的に締め、支配人達が来る前に解錠。簡単なトリックだった。また、高遠君の推理が当たったな。下條には借金があり・・・。」

 「使い魔に見込まれた、ですか。」「そういうことだ。全部ゲロしたよ。検察は、すぐ起訴するだろう。休憩中、邪魔して悪かった。それでは・・・。」画面は消えた。

 「聞いてないぞ、学。今夜が楽しみだ。いひひ。」

 「じゃあ、私、帰るから。高遠ちゃん、和三盆は料理に使ってね。」と、編集長は帰って行った。

 「そうそう、ケアマネージャーさんと打ち合わせがあったんだわ。私も帰る。」綾子が出ていくと、背後から「鍵は閉めたか?学。」と伝子の声が聞こえた。

 嫌な予感がして、高遠が振り向くと、全裸の伝子が立っていた。

 「来い!」と、伝子は高遠の耳を掴んで寝室へ向かった。

 「伝子さん、まだ、お昼だよ。」「それがどうした?」

 後のことは・・・説明するまでもない。

―完―




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