第4話
とにもかくにも朝食は終わりだ。
チョコレートでとどめをさされて、本当に満腹だ。
容量小さいのに頑張りすぎたかもしれない。
ヘルヴィルは椅子からよじよじと下りると、食堂を出た。
横幅も長さもある廊下に出て、とりあえず記憶にある道をなんとなく歩き出す。
ぽてぽてと歩きながら、きょろりとヘルヴィルは周りを見回していた。
記憶にはあるけれど、実感がないという何とも不思議な感覚だ。
ヘルヴィル・フォクライーストには現在二人分の人生の記憶がある。
二歳のヘルヴィルと日本人の十七歳男性の記憶だ。
つい先ほど転んだ時に鼻血が垂れたのと同時に思い出した。
なんともまぬけだなあと思う。
奔流のように流れ込んできた記憶は自分の記憶というか映画を見ているようだったのであまり混乱しなかったのは幸いだった。
ヘルヴィル自身は知らないが、生前の自分。
死んだとかは思いたくないけれど、一応生前としておこう。
そんな自分は、繊細な性格ではあまりなかったのでそのせいかもしれない。
生前のヘルヴィルは家族がいなくて施設育ちだった。
しかも結構ドライな施設だったので家族、とか兄弟、とかそんな雰囲気は欠片もなかった。
学校も施設の子共だということで遠巻きにされていたので、なかなかに寂しいものだったかもと思う。
「にしても、これげーむのせかいだよね」
うむむとヘルヴィルは両腕を組んで立ち止まった。
そうなのだ。
家族の姿を見て、名前を思い出したときにピンときた。
働いていたコンビニでバイトの女子高生が攻略本片手に熱く語ってくれたものと同じだと。
ゲームのタイトルは忘れたけれど。確か乙女ゲームと言っていた気がする。
ヒロインなどのことはあまり覚えていないけれど、悪役兄弟のことは覚えていたのだ。
そう、悪役兄弟。
確か正確の悪い姉のルードレットが悪役令嬢でヒロインを苛め抜き、能無しの兄リスタースがヒロインを手籠めにしようとするのだ。
そしてヘルヴィルはといえば、ルードレットのいじめの実行犯だ。
そして相手役とヒロインがくっついて悪行を暴かれて断罪される。
リスタースが死刑。
ルードレットは国外追放。
ヘルヴィルは奴隷落ちだった気がする。
「へびーだ……」
ゲームでは冷え切った家族で仲が最悪だという設定だった。
だから悪役になるのだろうか。
そこまで考えてヘルヴィルはハッとした。
「なかよしだったら、だいじょうぶなのでは」
ピシャーンと天啓が降りてきたようだった。
仲良し兄弟になれば、悪いことしてもお互いに気をつけあえるのではないだろうか。
「しょれだ!」
なんといういい考えなのだろう。
何より家族とか友達とか人間関係に飢えていたヘルヴィルにとっては、それが叶えばいいことずくめだ。
ほのぼの平和な生活。
素晴らしい未来だ。
「んふふ、もくひょーはきまった」
とりあえず乙女ゲームとやらの詳細はあまり知らないけれど、恋愛ゲームなのだから年頃になるまでは関係ないだろう。
それまではのんびり家族と仲良くしていこう。
詳細が決まったところで、ヘルヴィルは満足気に鼻息を吐いた。
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