第3話

チラリとリスタースやルードレットの方を見ると、二人もほとんど食事を終えていた。

 まあヘルヴィルとは食べるスピードが違うから仕方ないだろう。

 ふいにリスタースがテーブルの真ん中にある白い皿に手を伸ばした。

 その小さく黒いものを指につまみ、口元に運ぶ。

 なんだろうあれ。

 じーっとリスタースを見てから。

「それなあに?」

 目をくりくりとさせた。

 途端にリスタースが眉をしかめる。

 ルードレットがチラリとヘルヴィルを横目で見た。

「……チョコレートだ」

「ちょこ!」

 聞いた瞬間にヘルヴィルは、はわわと目を輝かせた。

 チョコレート。

 知っているぞ。

 食べたことはないが甘くて美味しいのだということは。

「びうもたべゆ!」

 ずいと身を乗り出して声を上げる。

 リスタースは眉を顰めたままついと顎でチョコレートの乗っている皿を示した。

「そこにあるのを食べればいい」

 食べていいんだ!と目をキラキラさせてヘルヴィルは思い切り皿へと手を伸ばした。

 残念なことに短すぎてまったく届かない。

「あう……」

 悲壮な顔で兄を見やると、舌打ちしそうな顔で見返された。

 その少年らしい指先がひょいと皿からチョコレートを取り上げる。

 ことさらゆっくりと動くその手を目で追っていると、ポイと手元にチョコレートを放り投げられた。

(おお!とってくれた!)

 目測を誤ったらしいチョコレートは皿の上には辿り着かなかったけれど、テーブルクロスの上だから問題ないだろう。

 ヘルヴィルは何の躊躇もなくそれをひょいぱくと口にした。

「んん!」

 甘くて濃厚な味が舌先に広がる。

 硬い外側を噛むと、中は柔らかい。

 思わずにへりと頬が緩まった。

「ありあとー。おいしー」

 礼を言うと、リスタースは何だか複雑そうな顔をしていた。

 ルードレットも何だか微妙な表情をしている。

 どうしたんだろうと思っていると。

「……フン」

 リスタースがガタンと立ち上がりさっさと食堂を後にしてしまった。

 それを見送っていると、ルードレットもカタンと席を立つ。

「ちょこはー?」

 食べないのだろうか。

 勿体ないと見上げたら。

「そんなものいらないわよ!」

 ピシャリと言われた。

そのまま出ていってしまうルードレットの背中も見送り、ヘルヴィルは首を傾げた。

「だいえっとかな?」

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