第2話
てちてちと椅子に近づき座る。
そこにはサラダマリネやローストビーフ、ふかふかのパンなどが並んでいる。
(ご、ごちそうだ!)
キラキラと目を輝かせると。
「いたーきましゅ」
一番近くにあったサーモンのマリネにフォークを刺して、口に運んだ。
新鮮な魚とまったりとしたソースの味わいに、思わずにこにこしてしまうヘルヴィルだ。
ふと視線を感じて顔を上げると、三者三様になんともいえない顔で家族が見ている。
「なーに?」
不思議に思い、こてんと首を傾げると。
グレンがいや、と言葉を濁す。
沈黙が落ちたので、今度はパンを手に取り欲張って大きく千切ると。
「……よく噛んで食べろ」
およそ聞いたことのない言葉を、ものすごく固い声で告げてきた。
その発言に、リスタースとルードレットが目を見張って父親にバッと視線を向ける。
ヘルヴィルは気遣ってくれているんだなあと呑気に思いながら。
「あい!」
めちゃくちゃいい返事をした。
今度はバッと父親から兄と姉が信じられないものを見るかのように、ヘルヴィルを見やる。
その反応を不思議に思いながらも、ヘルヴィルはパンを頬張った。
もちもちとしたその食感は、噛めば噛むほど甘い。
ヘルヴィルがにこにこ笑いながら、もちもちと口を動かしていると。
「今日はシュークリット殿下が来る。ルードレットにだ」
グレンの言葉に、ルードレットはぴくりと食事していた手を止めて、どこか緊張の面持ちを浮かべた。
「婚約の打診……ですか?」
まだ五歳なのにか!とパンをもちもちしながらヘルヴィルは驚いた。
(でもさいしょーの侯爵家だもんな)
宰相が何で侯爵家がどれくらいえらいのかは知らないけれど、身分が高い人は結婚も早いっていうもんなと、さらにパンを千切る。
ヘルヴィルの記憶にはそういうことはあまりない。
絵本とか、庭の花とか、そんなことしか。
「いや、友人候補だ。婚約を決めるのはまだ先だそうだ」
「わかりました」
ルードレットが神妙に頷く。
二人の会話が終わると、リスタースがどこか遠慮がちに。
「父上、私も兄として挨拶を……」
「お前は何もしなくていい」
グレンに遮られ、リスタースの眉がくっと寄った。
「びうはー?」
自分も聞いておいたほうがいいだろうかと、声を上げる。
ヘルヴィルとは言いにくかったので、苦肉の先でヴィルと名乗ったら舌足らずにびうと口から出た。
残念すぎる。
ヘルヴィルの主張に、三人はやはり驚いたようなぽかんとした顔で末っ子を見ている。
何かあるだろうかと期待の眼差しを父親に向けると。
「……いつも通りに過ごせ」
「あい!」
再びいいお返事をする。
するとグレンは何ともいえない表情で、食事の終わったテーブルから立ち上がると、執事を伴って食堂から出て行ってしまった。
小さく切られたローストビーフを食べて、ヘルヴィルの腹はくちくなった。
パンを食べ過ぎたのが敗因だ。
許容量小さいなこの体と残念に思う。
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