第13話 閃光

イラストも描いています。

こちらをご参照ください。


https://kakuyomu.jp/users/0035toto/news/16817330659583870275


※※※※※※※※※※※※※※※


「せ、せん・・せい・・・ 」

一瞬、閃光が光った。


【うおっ・・・】

ヤクザ達が一斉に叫んだ。


廻りを取り囲むようにしていたブルドーザー達のヘッドライトが一斉に点灯したからだった。

目が眩んでいる男達の隙を突いて純が走っていくと、安田を押さえていた男に思いきりタックルをした。


「安田さん、しっかり・・・」

「先生・・・」


純に引っ張られるようにして立ち上がった安田は、ブルドーザーの脇に滑り込んだ。

ブルドーザーら機械群はエンジンの音を吹かせながら、ゆっくりと砂利道を進んでいく。


坊主頭達は何が起こったのか解からず、不気味に四方から迫る光に足がすくんでいた。

パワーシャベルの先が、横から男達を払った。


【う、うわー・・・】


スローモーションのように、男達がとんだ。

思い土砂を、一瞬の内に掻き出すパワーだ。


生身の人間では、一たまりも無い。


そして、次のブルドーザーが地響きを立てて砂利ごと男達を掻き出していく。

腰が抜けてしまったのか、男達は哀れな声を出しながら這うように逃げ惑っている。


「た、助けてくれぇ・・・」

ブルドーザーの影から二人出てきて、大きなツルハシを構えている。


「動くで、ねー・・・!」

パワーシャベルの座席からも、大声がとんだ。


「俺ぁーコイツで、猫の背中もかけるでよー。

おめーらの目ん玉、くりぬくぐらい簡単だべぇ」


坊主頭達はガクガクと足を震わせて座込んでいる。

ツルハシの二人が、ロープで三人を縛り上げていく。

普段鍛えている力で、ギュウギュウ巻いている。


「今、警察呼んだから、

大人しくしてっだぞ・・・」


そうして座席から降りると、ブルドーザーにもたれるようにしている安田とその隣で肩を震わせている純の方に笑顔を向けた。


「もう大丈夫だべぇ、センセイ・・・」


純は耐えていた物が一気に吹き出したのか、安田の胸に顔を埋めて泣きじゃくっている。

安田は戸惑いの表情で男を見た。


「何だ・・親方か・・・?」

安心したのか、腫れ上がった顔を歪めて白い歯を見せた。


「あやー、男前になったべぇ・・・。

所長ぉ・・・」


親方がからかうように言った。


「ど、どうして、ここに・・・・?」


「いやー、さっきセンセイが現場に向かって、

走っていくのが見えてよー・・・。


なーんか、気になったんで、

来てみてゲートから覗いたらよぉー・・・・。


所長が、バーシバシ、殴られてんだもんなぁー?」


パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

それにホッとしたのか、他の者達もはやし立てるように言った。


「所長ぉ・・・カーコ、良かったべぇー・・・。

それにー・・・・お似合いだっぺぇー?」


ゲラゲラ笑う男達に、純も顔を上げると真っ赤になって俯いた。


「な、何言ってるんだ。

失礼だろ、先生に・・・」


安田も頬を染めながら、ムキになった。


「なーに、言ってんだべぇー・・・。

みーんな、二人の事は知ってるべよぉー・・・。

好きあってるってー・・・?」


「バ、バカな事、言うなっ・・・」

安田が取り乱すのを、親方は楽しそうに見ている。


「所長ぉ・・・。

まーさか、まだ気付かねえんかい?

先生は、女だってよぉー・・・」


親方の言葉に安田は目を大きく開いて純を見た。

純は目が合うと、恥ずかしさに顔を伏せた。


「よーく、見りゃ解かるベー・・・。

こーんな、メンコイ男がいる訳ねーべぇ・・・」


別の男が、安田の手を縛っているテープをカッターで切りながら言った。


「よく言うがやぁ・・・。

お前だって、暫らく解かん無かったくせにぃー」


「違えねー、騙されたっぺー・・・」


職人達の笑い声の中で

呆然としている安田であった。

やっと自由になった手を持て余している安田を見かねて、親方がそれを純の細い肩に無理やり廻してやった。


「もー、しっかりしてけろー、所長ぉ・・・。

いーつも、二人してジーと、

見詰め合っていたくせにぃ。

現場中、評判だったっぺぇー・・・」


真赤になる安田を潤んだ瞳で純が見つめている。

安田も何を言って良いか解からずに、しどろもどろしている。


パトカーが到着して警官がドヤドヤと降りてきた。

ヤクザ達を車に押し込み、親方に事情聴取している。


安田の頭はまだ興奮で爆発寸前であったが、純の肩の温もりに気付き力を込めた。


「安田・・さん・・・」

純がもたれるように、顔を上げた。


「せん・・せい・・・」


パトカーの赤いランプが、現場の中を廻りながら照らしている。

純と安田の顔も、闇の中に浮かんでは消えていく。


二人は無事である事の喜びを、ようやく噛み締めるように白い歯をこぼした。

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