第14話 シルエット
薄明かりの中、腫れ上がった目をこじ開けるように安田が見つめている。
微かに開いた口元から不規則な呼吸が漏れている。
ベッドに腰掛けたまま、ズボンに皺を作る程の力で両膝を掴んでいる。
純が恥ずかしそうにカッターシャツのボタンを外して胸元を開くと、安田は小さく声をあげた。
「あっ・・・」
耳元まで真赤になりながら胸のサポーターを外した。
押さえつけられていた胸の膨らみが、徐々に下着を押し上げていく。
純が更にブラジャーのホックを外そうとすると、安田が両手を出して遮るように言った。
「せ、先生・・。も、もう・・・」
純は俯いていた顔を上げると、潤んだ瞳でキッと睨むようにして声を搾り出した。
「見て・・欲しい・・・んです。
ボク・・ボクは・・・」
純の瞳から涙が溢れてくる。
安田はその迫力に圧倒されたのか、ベッドに座り込むとゴクンと唾を飲んだ。
「安田さん・・。ボクを、見て・・・」
ホックを外したブラジャーが、
ハラリと床に落ちた。
白い固まりが弾けたかと思うと、安田の目に鮮烈に飛び込んできた。
美しかった。
形の良いバストが、ツンと上を向いている。
純のボーイッシュな顔とのアンバランスさが、返って眩しく安田の目に映る。
純の長い睫毛。
純の潤んだ瞳。
今、妖しく濡れた唇が現実となって安田の心に迫ってくる。
「綺麗・・だ・・・」
純をジッと見つめたまま、催眠術に掛かったように安田が呟いた。
そしてベッドから立ち上がると、吸い込まれるように純に近づいていった。
頬に伝う涙を光らせて、純は待っている。
安田の長い手が頬に触れた。
「安田・・さ・・・ん」
その声が合図であるかのように、二人の顔が重なっていった。
純の小さなカカトが、浮き上がっている。
安田の大きな両腕が、細い肩を包み込む。
純の両手が、男の広い背中で止まっている。
時間が流れていく。
それは未来に、であろうか。
それとも過去に、であろうか。
二人の想いが強い程、シャツに皺が出来る。
二人の想いが熱い程、吐息が切ない。
二人の想いが・・・。
純の涙を、溢れさせる。
顔を離した時、純の膝がカクンと折れた。
安田が慌てて抱きかかえるようにベッドに運んだ。
男の首にしがみ付きながら、純が声を絞り出す。
「嫌いにならないで。ボク、ボク・・・」
男は、純を安心させるかの如く唇で蓋をした。
純は男が逃げていく気がして、必死にしがみ付いている。
二人は今まで貯めていた愛を、
一気にぶつけていく。
安田は純の首すじに唇を当てて囁いた。
「好きだ・・先生・・・。
ずっと・・・ずっと、前から・・・」
純の白い手が、男の頭をかきむしる。
「うれ・・しい・・・。
わ、私も・・・。
ねえ、ジュン・・と呼んで・・・」
男はその願いにこたえて囁き続けた。
「ジュン、ジュン・・・。
愛している・・・。
初めて会ったときから、ずっと・・・」
「ボ、ボク・・も・・・。
嫌われている・・かと、思ってた・・・」
安田は身体を起こすと、純の頬に手を当てて瞳を見つめた。
「そんな事・・どうして・・・?」
「だって、だってぇ・・・」
再び溢れる涙を唇で受け止めると、男はもう言葉を使う事をやめた。
二人のシルエットが重なっていく。
月の光が差し込む部屋は、二人の影を青白く幻想的に浮かび上がらせていく。
ためらい、立ち止まっていた愛がようやく走り出している。
二人が出会って一年と四ヶ月目の夜であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます