第5話 パートナー
所長の安田の説明を流暢な英語で純が訳している。
社長の黒崎豊は日本人であるので通訳の必要はないのであるが、パートナーのロジャー・モリスは熱心に純の説明に相槌を打ちながら、鋭い質問を早口の英語でまくし立てている。
「どうして、この壁は斜めではないのですか?
設計では、もっとシャープなラインを見せていた筈です」
純から通訳されるまでもなく、モリスの大袈裟な身振りは多少英語の知識がある安田を困らすには十分であった。
「そ、それは・・その・・・。
斜めにしますと型枠のサポートが難しくて・・・」
「シャラープッ・・・!」
純の通訳を遮るように、長い腕を広げて叫ぶ。
髪は豊かな黒髪で、天然パーマが長めに肩先まで伸びている。
高い鼻と青い瞳は、少女マンガの主人公を思わせる超イケメンであった。
純の父の豊も背の高い方ではあるが、それでも180㎝はある安田の身長を軽く抜く長身で、逞しい胸板をスーツ越しに見せている。
豊は巡回中余り喋らず、オロオロする安田の会社社長に気遣いながら、時折パートナーのモリスをなだめていた。
「とにかく、安田さん・・・。
純は現場経験も浅いし、
設計図もラフなものしかありませんが、
どうか助けてやって下さい」
世界的有名な建築家からそう言われて、感激しない所長はいないであろう。
安田はモリスの刺すような視線を気にしつつ、背筋をピンと伸ばして答えた。
「ハイッ、解かりました。
今後とも全力を尽くしますので、
宜しくご指導下さい!」
安田の上司は社長と共に黒崎達を促して、接待の場へと去って行った。
安田も同席するよう命じられていたのだが、現場が心配であると丁重に断った。
正直な所、豊は兎も角、モリスと酒の席にいるのは恐ろしかった。
あの早口な英語でまくし立てられたら、どんな料理も喉を通らないであろう。
それに酔った時、目の前に純がいるとなると、何を口走ってしまうか自信が持てなかった。
それでも連れて行こうとする上司を社用車の座席に押し込むと、安田は車が走り出しても頭を下げたままでいた。
気の早い夕暮れが、半分程立ちあがった文化ホールのシルエットを色濃く落としていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます