ケース3 木こりは色を好んでいた
とある泉に斧を捨てると女神が現れる。
その噂を聞きつけて、なんちゃって木こりの青年は噂の泉に足を運びました。
なんちゃって木こりとはどういうことか。
青年は木こりっぽい服装をしていますが、職業は地主です。
青年は広大な土地を持っており、農作地と酪農、鉱山を経営しています。
そこに数百人規模の農夫や工夫を雇い、利益を得ているのです。
つまり、生活に困っているわけではない、むしろ裕福な人間です。
では、なぜ金の斧をくれるという湖に来たのか。
青年の目的は、斧ではありませんでした。
なんちゃって木こりの青年は、一度も使ったことがない新品の斧を、泉の中に投げ込みました。
しばらくすると、水面が揺れ、中からゆっくりと人がせり上がってきました。
「お、本当に出てきた…!」
青年は興奮した様子でせり上がる人物を見つめました。
きらきらの金色の髪と、宝石のような緑の瞳、白いヴェールのような美しい布をくすみなく綺麗な体に巻いた—――
「あなたが落としたのは、金の斧ですか?」
端正な顔立ちの『男』が、金の斧を携えて、なんちゃって木こりの青年に尋ねました。
「……………………………………………………」
青年はしばし言葉を失い、泉から現れた美しい『男』を、視線をゆっくり上下させながら何度も見ました。
泉から現れた『男』は青年の様子がおかしいことに気づきました。
「どうかしましたか…?」
青年は震える声で、尋ねました。
「あの……、あなたは一体……」
問いに対し、『男』はにこやかに答えます。
「ああ、いきなりで驚きますよね。当然です。わたしはヘルメス。神です」
「な……、な……」
青年は神であるヘルメスを改めて見やり、わなわなと震え、
「なんで男が出てくるんだーーーーーーーーーー!!」
周囲の森中に響く声で、叫びました。
「はい…?」
青年の叫びに、今度はヘルメスが困惑しました。
「あの、いったい何を…」
「そこは女神でしょう!」
青年は悔しさのあまり地面に拳を叩きつけながら、怨嗟の声を上げました。
「見目麗しい女神様が現れて、俺に問いかけるシーンなんですよ!わかります!?」
「いや、そう言われても」
「あなただって、ヘパイストスから『お疲れ様』って言われるよりも、アフロディーテに『お疲れ様♪』って言われた方がやる気出るだろ!?」
ヘルメスはこれだけは「確かに」と力強く思った。
だがしかし、ここで青年の主張を素直に受け入れるわけにもいかないと、ヘルメスは言います。
「自分の期待とは違うことが起きてしまった。そのことに憤慨する気持ちはわかりますが、本来わたしがこの泉を管轄している神であって、あくまで女神は臨時なんです。つまり、ここでわたしヘルメスが出てくるのがあるべき姿なんですよ」
「今、臨時、と言ったか?」
「ん?ええ言いましたが」
「じゃあ、女神のシフトを教えてくれ」
青年は引き下がるつもりはないようです。
「その時になったら、改めて斧投げ捨てるので」
「いや投げ捨てるのやめてよ。あくまで落としてしまったものに対して正直に答えたらご褒美あげて信仰心という見返り貰うシステムなんだから」
なんかヘルメスもぶっちゃけ始めました。
そんなこと意にも介さず、クレーマーと化した青年は更に問い詰めます。
「いいからさぁ、女神ちゃんはいつ来るの?」
「……来週の日曜と月曜です。あと隔週で土曜日にも」
「明日だな、わかった。明日来るから、ちゃんとその子出勤させておいてね」
青年は好き勝手言って去っていきました。
「一応、神なんだけどなぁ~」
ヘルメスはぐったりしながら泉に帰っていきました。
その翌日、早朝のこと。
『すいません、ゴホゴホ…、体調悪いので、お休みさせてください…』
ヘルメスの元に、女神から連絡が入りました。
「え~困るよ~、君目当ての人間が今日来るんだよ~」
『そんなことゴホ、言ったって、ゴホッ、喉が辛くてまど、ゴッホン!、まともに話すのも、ンン!辛いのに』
「わかった。無理言ってごめんね。お大事に」
ヘルメスは盛大にため息を吐くと、さてどう対応しようかと悩み始めました。
「神って、辛いな~……」
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