5.闇深少女は衝撃の事実を知る

「へえ?」



 ……どういうこと?

 ああ、いやまあ、なんとなく理解は出来るんだがね。こうやって変身してみると、精霊っていうのがどんなものなのかがなんとなくだけど分かるようになった。後は魔法少女として使える魔法だったり、魔法少女と契約している精霊とやらが何処に居るのかも今となってははっきりと理解出来る。

 本能というか無意識というか、自分が少しだけ精霊に近付いたのは感じた。



 いやまあ、だからといって俺の精神面は変わってないんだけどね? 恐らくだが、これに関しては俺自身が転生者だからじゃないかと思ってるんだよな。

 言ってしまえば産まれた時から自我の強い状態で、後は理屈も分からないけど、魂とかも関係してるんじゃないかな。そもそも、俺が今どんな状態なのかも分かってないから今どれだけ考えたところで詮無きことではあるんだが。



「待て待て。私たちを抜きで話をしないでくれ。そもそもだ。スイはフェディ……六花の精霊と話せるのか?」

「話せるよ? というか、現にこうやって会話してるでしょ?」

「いや、私には聴こえてないからそもそも成立してるのかも分かんねえし。なあ、沙奈?」

「……え? あ、はい。そうですね」



 お姉さん気質な少し口調の荒い青髪の魔法少女に大人しそうな小柄な緑髪の魔法少女……確か、星華さんと沙奈さんだっけか。なんか、青髪の魔法少女ってクールなイメージがあるから調子が狂うな。偏見ではあるけどさ。 

 星華さんと沙奈さんは、私が精霊と会話出来ることは知らなかったんだったな。そういえばそうだった。

 にしても、さっきから沙奈さんの挙動が何やらおかしい。私が変な暴露かましてから、明らかに動揺しているように見える。

 見た感じ本当に気弱な子みたいだし、あんなことを言ったから怖がらせちゃったかな? 実は俺の格好が怖いとか……は、タイミング的になさそうではあるけど、もしそうだったら傷付くとまではいかないけど、微妙にへこむかもしれない。



 ただ、距離を置かれるのは少し寂しい気はするな。この可愛い子たちを曇らせるためにもまずはある程度の仲は保っておきたいし、それにこの沙奈さんだけはちっちゃくて妹って感じがするからあんまり嫌われたいとは思えないんだよなぁ。仕方ない……。



「大丈夫? もしかして、ちょっと怖がらせちゃったかな? 頭、撫でてあげようか」

「……! い、いえ! 大丈夫です!」



 そう言うと、何故か顔を真っ赤にしながら涙目で首を必死に振って断られた。これ、もしかして本気で嫌がられてるやつでは? 少しどころかかなりショックなんだけど……。



「そっか。で、なんで精霊と話せるかは……まあ、秘密かな」



 きっぱりと言い切ってやると、3人とも揃って唖然とした表情を浮かべる。

 この3人は本気で教えてくれると思っていたのだろうか。そんなに、仲良くなれたとでも思ったのか?



「そもそも私、貴女達のことはまだ信用してないから。そこの……六花さん? さっき、私にやったこと、覚えてる?」

「……りつ?」



 俺がさっき受けた仕打ちを指摘してやると、六花さんは一瞬だけ身体を震わせて、顔を青くした。様子がおかしいことに気付いた星華さんは六花さんを訝しむように覗き込み、沙奈さんも困惑した顔で六花さんの方を見る。



「ごめ──」

「ああ、さっきも言ったけど、謝らなくても大丈夫。あの反応は人として当然だと思う」

「待てよ。さっきから、何の話をしてるのか分からないんだが」



 星華さんまで困ったように言うが、それも当然だ。2人とも、居ない時の出来事だったんだから。

 ただ、このままだと3人の仲に亀裂が入りかねない。流石にそろそろフォローも入れないと不味いか。そう思っていると。



『ちょっと待つの。スイに近寄るのはやめておいた方がいいの』



 またもや、間を割るようにフェディが会話に入り込んでくる。てか、待て。いきなり何を言っているんだこいつは。



「フェディ!? いきなりなんでそんなことを!」

『落ち着くの。ちゃんと理由があるから言ってるの。それに……スイだって、リツカ達のことを想ってあんなことを言ってるの』



 おい、フェディが何やら見当違いなことを言い始めたぞ。全くそんな意図はなかったんだけど? そもそも、あの発言でどうしてそうなった。



「どういうこと……?」

『スイに混ざっている精霊は闇の精霊なの。それも、フェディたちよりも遥かに高位の、とても強い精霊なの。そのせいで、スイの身体から闇の魔力が漏れてきてるの。少しの間なら人が近付いても大丈夫だけど、もし長く近付いていたら……精神がおかしくなる可能性が高いの。最悪、廃人になったり死ぬことだってあるの』

「なっ!?」

「そんな……スイちゃん。本当なの?」

「……そうかもね」



 ──あの、初耳です。

 まあ教えてくれる人なんて居なかったからそりゃ知るタイミングなんてなかったから仕方はないんだけど。でも、さっきまでの発言にそんな意図は本当にないです。

 少し意識してみると、確かに身体から黒い何かが出てきているのがよく分かるが、これが魔力かぁ。

 待てよ、漏れてるってことは逆に魔力を押し込むことも出来るんじゃね?

 なんとなく魔力を内側に閉じ込めるようなイメージで集中して……よし、ちゃんと押し込めてるな。



『!? それ以上はダメなの!!』


 万事順調に魔力を体内に押し込んでいると、珍しくフェディが必死な様子で叫び声をあげた、その直後。



「うっ……!?」



 いきなり、全身をとんでもないくらいの悪寒と体の芯から張り裂けそうなくらいの痛みが駆け回り、目の前が歪んで見えなくなるくらいの頭痛が襲う。

 挙句、相当量の血まで吐いてしまった。視界が赤くなっているところを見るに、多分目元や、耳からも出血しているような感覚がする。



「スイちゃん!?」

「おいスイ!」

「え、あ……!」



 魔法少女たちは相当焦ってるようだ。いきなり目の前で人が死にかけたら、誰だってそうなるよな。今なら凄く良さそうな曇り顔が見れそうだけど、生憎余裕と言える余裕は全くない。

 というか、自分でも割と本気でやばい。なにせ、何故かこの傷を再生することが出来ないんだよな。しかも、痛みや寒さまで感じるくらいだから、恐らく本当にやばい状況なんじゃないかと思う。



「ぐるなっ!」



 魔法少女たちが近寄ってこようとする気配を感じとったので来ないように忠告する。さっき無理矢理押さえ込もうとしたせいで、さっきよりも魔力が漏れるようになっちゃったんだよね。曇り顔は見たいけど、怪我をして欲しいとまでは思わないし。

 ただ、喉に血が詰まってたからちゃんと伝わってるのかも微妙だな。次はちゃんと声が通るように声量を下げて……。



「来ないで……」



 よし、魔法少女たちもさっきよりは冷静になったみたいだし、これでもちゃんと聞いてくれただろう。今から魔法を使うから、この状況で魔法を使って俺の近くに居ると、何があるか分からんからな。

 流石にこの状況で魔法少女の近くに居るべきじゃないし、ひとまず今日はこの場を離れようと思う。ただ、この怪我がしっかり治るかが正直気になるところではあるが、まあ仕方がない。なにしろ、人に近付くことも近寄らせることも出来ないんだから。



 折角の縁なわけだし、別れの挨拶くらいはしておこう。次、会う時があるかも分からないし。それに、流石に今のままじゃ会う訳にもいかないからね。



「……これで、分かったよね。私には、近付かない方がいい。その方が、皆も幸せだし……私だって、誰も、傷付けたくないの……じゃあ、さようなら」

「スイちゃん! 待って!」

「【影移動シャドウワープ】」



 最後に六花が止めようとしているのを尻目に、俺は魔法で別の場所へと移動した。移動と言っても、この【影移動シャドウワープ】は感知内の範囲なら、一瞬で移動することが出来るものだ。それを繰り返せば、数秒で元の場所から数十キロは離れた場所まで動くことが出来る。実質、瞬間移動と言ってもいいだろう。



 誰も居ない狭い裏道で、ようやく俺は身体を影から出して壁に背中を密接させる。

 正直まだ全身が痛いし、なんなら魔法を使ってからは頭痛がより酷くなっていた。でも、この体質のせいで病院はおろか、人に頼ることも出来ないしな。



「本当、これからどうしようかな」



 これからの行く末を思うと、溜め息が出るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る