第26話【女神side】ありえない

side白金


ミストラルから帰ってきた私はずっと考えていた。


(千葉くんは生きていた……でも俗に言う闇堕ちみたいになっていた)


あの次は無い、というような圧力は今でも鮮明に思い出せる。

次に会えば私の命があるかどうかが分からないほどの重圧。


そんなものを放っていた。

少なくとも彼は私たちのことを味方だとは思っていないことはたしかだが。


でも私は


(見捨てられないよ。クラスメイトのこと)


既に安堂が死んだことに関しては聞いている。

死因までは細かくは聞いていないが、モンスターに殺された、という話は聞いた。


それから死亡が確定した宮田くん。


どちらも私のクラスメイトだった。

話したことはそこまでないけど、それでも同じ異郷と呼ばれる場所から来たクラスメイト。


このふたりの死でなんとなく察していた。

殺したのはきっと、千葉くんなんだと。


(この世界では本当に簡単に人が死ぬ)


でも、そんなの認めたくなかった。


(今残っている人達だけでも一緒に元の世界に帰るんだ)


千葉くんだって、いずれ心を変えてくれるかもしれない、とそう思っていた。


でも甘いのだろうか?


『次会ったら敵だと思え』


あの言葉にいっさいの温もりは感じられなかった。

あそこまで堕ちてしまった千葉くんを私なんかが光の道に戻せるのだろうか?


頭を支配していたのはそういう考え。


「何をくれぇ顔してやがる委員長?」

「わっ?!」


同じことばかり考えていた私の考えを吹き飛ばした声。


「さ、坂本くん?」

「葬式みてぇに湿気たツラしてんな」


性格悪そうに笑う坂本くん。

未だに私は彼の人物像というものを掴みかねていた。


クラスの不良枠。

そう思われている人物だが、根はそうではないことを私は早々に理解していた。


(この男……女神よりも思考が読めない)


女神はあれでいて単純明快。

私たちにひたすら訓練をさせて強くならせる。


根底にあるのはそれだけ。

私たち人を完全に下に見ているからこそ、その程度のことしか考えていないのだが。


坂本……この人物はそんなに単純な思考回路をしていないことだけは分かる。


「安堂が死んだ、という話はしたな?」

「えぇ」

「安堂が死んだのは裏ルートだ」

「う、裏?」

「この世界はゲームの世界って話は聞いたな?ほら、安堂や宮田たちがボソボソ言ってただろ?」


その話は聞いた。

何人かのクラスメイトは原作と呼ばれるものをプレイ済みで話の流れを知っている、ということも。


「その原作にはダンジョン内に裏ルートと呼ばれるショートカットがあったらしいんだよ。安堂はその裏ルートで死んだ、これがどういうことか分かるか?」


睨むような目で見てくる坂本。


「俺ら以外にこのゲームを知っている人間がいるってことだろ。じゃなきゃ裏ルートに入っていった安堂を裏ルートでやれねぇよ」


内心焦った。

この男、もしかして真実に気付いているのでは?と思ったから。


「もしそんな人が仮にいるのなら、その人仲間に引き込めないかな?裏ルートまで知っている人物だよ。戦力になるよ」

「なしだ」


即答してきた。


「ど、どうして?」

「理由は簡単だ。この俺がいればこんな異世界蹂躙できるから、さ」


そう言って私から離れていこうとする坂本くん。


「さ、坂本くんのギフトってなに?」

「俺のギフト?」


この世界に来て女神から与えられたギフト。


ほとんどのクラスメイトは手を組む時にお互いの手の内を教えあったが、坂本だけは誰にもギフトを教えていなかった。


「なぜ、お前のような奴に話す必要がある?」


口許を歪めてくる坂本。


「まさか、いつまでも仲間だと思ってるわけ?俺はお前のこと、どこにでもいるただの穴くらいにしか見てないんだぜ?」

「なっ……」


絶句した。

仲がいいだなんてことはお世辞でも言えなかったが、人間として見られていなかった、なんて。


「まぁいい。でも一応元クラスメイトとして忠告くらいはしておいてやる」

「忠告……?」


言葉の意味が分からず聞き返す。


「虫の知らせってやつかな。俺は女神の下を去るつもりだ。お前らも早いうちに見切りつけた方がいいぜ」

「ど、どういうこと?」

「さぁな?虫の知らせって言ったろ?なんとなくもうあいつとは手を切るってことさ」


そう言って歩いていく坂本くん。


女神に一番忠誠を誓っていたハズの坂本にあそこまで言わせるだけのなにかが起ころうとしているのだろうか?


「言っておくが、俺は別に女神に忠誠なんて誓っちゃいないさ」


最後に振り返ってそう口を開いた。


「ただのフリさ。まだ来たばっかでこの世界のこと分かんなかったしとりあえず付き従っただけだがもうそれを続ける必要もねぇ」


そうとだけ言って今度こそ振り返ることなく、どこかへ行こうとする坂本。


今の私にはその後ろ姿を見守ることしか出来なかったのだった。



side女神


女神クオンとその腹心のシェラックは召喚の間にいた。


「女神様!国の門が、や、破られました」

「……なんですと?」


報告に来たシェラックにこれからのことについて話していくクオン。


「破壊したのは何者ですか?」

「そ、それが、わ、分かりません」

「はぁ、そうですか」


女神の顔に浮かんでいた焦りも今は消えていた。


「私としたことが軽く取り乱してしまいましたね。それにしても門を破るなんて馬鹿なことをしたのはどこのどなたなのでしょうね」


女神はオーラ探知の魔法を使った。


【サーチ】


これで女神クオンは王国内の情勢を知ることができるようになったが。


「こ、これは……」


女神クオンの頭に入ってきた情報は本来入ってきてはならない情報。


「ど、どうしたのですか?女神様」

「し、七星剣……がなぜここに……あ、ありえない。あれらは数年前にすべて処分したはず。禁断の地に封印したはず、なぜ今ここに……」

「し、七星剣が?!」


女神の顔に再び焦りが浮かぶ。


今までは門が破られ、ここまで賊が侵入したとしてもヴェールが破られない限りは自分は負けないという自身から余裕があったが、そのヴェールを敗れる存在が現れたのだから。


「シェ、シェラック。早く異郷の勇者を呼び戻すのです。女神の騎士を!私を護衛させるのです!」

「で、ですが、彼らは数日前に魔王軍を食い止めに向かったばかり、到着までには少なくとも半日は……」


ここにきて女神の顔から焦りが消えることはもう既になくなった。


「な、何としてでもここに辿り着かせてはなりません!そ、そうだ!ミストラルの公爵家の兵士が近くにいましたね?!そ、その者をここに招集するのです!」

「そ、それが数日前に公爵は殺害されており、あの兵士はフリーの身です。無償では招集に応じないでしょう」

「だ、だからなぜ毎回そういう報告が遅いのですか?!シェラック?!」

「も、申し訳ございません」


女神は爪を噛み始めた。


「でも我が国にはまだ騎士団がいましたわね。彼らが奮闘してくれることでしょう。いくら七星剣でも数には勝てませんわよ」


そのとき


外からの爆音。


「な、なんの音ですか?!」


窓から外を見た女神の顔から血の気が引いた。


そこに売っていた光景は、100を超える人数の騎士団がたった一人の男に負けている光景。


「あ、ありえない……なんですか?これは……騎士団が……この短時間で壊滅……?」

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