第18話 ミストラルのダンジョン
レイナを引き剥がして俺は次の街ミストラルまでやってきていた。
さて、これからどうするか。
短期的な目的としてはここにあるダンジョンを攻略すること、だが。
対女神のこともそろそろ考え始めた方がいいかもしれない。
それにスケルトンの髄液をトリプルになる時に使ったので、少々予定が狂ってしまっている。
スケルトンの髄液は本来、回復アイテムを調合するのに使おうと思っていたのだが、当初の予定からズレたわけだ。
(後は魔人レベルがいくつまで上がるか、だよな)
ここまでロシアンルーレットを成功させている俺と言えども正直カンストするまで回し続ける勇気は出なかった。
原作を考えれば失敗すれば普通に死ぬし。
この辺りについてはどこまでレベルが上がるのかを知っている人物がいればいいが……。
心当たりとしては魔王軍の魔王様くらいか。
しかしどんな顔をしているのかも分からないな。
原作ではずっと甲冑を被っていた。
そんな人物に会いに行くのは中々怖いものである。
そんな事を思いながら俺はダンジョンに向かうために歩いていたのだが、街の道を歩いているとバッタリと俺は出会ってしまった。
「ち、ちばく……」
俺は声を出そうとした委員長、白金の口を押えて路地裏に連れていった。
それと同時に周囲の確認。
(委員長だけ、か)
それを確認してから口から手を離した。
「な、なんで生きてるの……」
そう聞いてくる委員長。
有原さんにはバレているが、知らなかったような反応をしているしあの人は約束通り俺が生きていることを黙っていたようだな。
(口止めのために殺すか?女神に告げ口されては困るしな)
とは思うが。
流石にやめておくか。
クズにはそれ相応の対応だが、この人は俺を庇おうとしてくれていた。
「女神の発表で死んだって聞いたのに。で、でも良かった。生き延びてるなら女神様のところ行こうよ。みんなにも説得するか……」
そう言って俺の手を取ってくるが、その手を払った。
「えっ?」
委員長の顔から笑顔が消えた。
さっきまで俺が生きていることを喜んでくれていたようだが、その感情も消えていた。
手を払った俺の行動の意味を理解しているのだろう。
「友達ごっこは終わりだよ委員長」
「ど、どういうこと?」
「俺はもうあんた達の敵だよ」
そう言って踵を返す。
「ま、待って」
後ろから俺の手を掴んでくる委員長の手をまた払った。
「俺はもう戻らない。今回は見逃すけど、次俺にあったら敵だと思いなよ。それと俺が生きていることは秘密にしておいた方がいいよ?」
完全に油断していたな。
こんなところで会うとは思っていなかった。
フードを被る。
基本的に被っている方がいいだろうな。
◇
ミストラルのダンジョンへ潜る。
ここにも前と同じようにいろいろと仕掛けがある。
ダンジョンに入ってすぐのところにあるポッカリと開いた穴。
そこに飛び込めば一気に階層をスキップすることができる。
「よっと」
底の見えないほどの穴に躊躇なく飛び込んで途中にあった足場に着地。
前と同じ感じだ。
そこを進むと通常よりは難易度の高い道が広がるが、そこを抜ければ直ぐにこのダンジョンのボスエリアまで辿り着けることになっている。
「原作と変わらないな」
その道を歩いていると、
「ホーリーブラスト!」
別の声が聞こえてきた。
(なぜ、この道を知っている?)
そんな疑問を覚えながら俺は歩いていくと
(あ、安堂?!)
視線の先では安堂がいた。
Aランク勇者としてこの世界に召喚された、クラスメイトの安堂。
それを見て心臓の鼓動が早くなる。
最悪な場所で出会った。
嫌な記憶がフラッシュバックする。
『空気くん?』
奴が俺を呼ぶ時のものだった。
実際には安堂は口を開いていないが、嫌でも思い出してしまう。
安堂は周りからの評価はいいが、その裏では俺に対していじめを行っていた。
理由は簡単だった。
『お前暗いんだよ』
俺が空気のように静かだったから、それだけの理由だった。
空気なら無視していればいいものを……こいつは俺からたくさんのものを奪っていった。
中でも印象に残っているのは金だった。
こいつに巻き上げられた額なんて覚えていない。
それを思い出して俺の中で静かな怒りが湧き上がった。
気付いたら俺は意識せずに安堂に近付いていた。
「誰だ?!」
安堂は振り返りながら【ウィンド】を放ってきた。
その風で俺のフードは抵抗もなく脱がされることとなった。
「千葉……?」
俺の顔を見てそう呟いてくる安堂。
「どうして生きてるお前」
そう聞かれて、ただ俺は地を蹴った。
「がっ!」
気付けば安堂の首を掴んで、安堂の体を宙に浮かしていた。
首を掴む右手にギリギリと力を込めていく。
『苦しいかい?千葉?やめてほしかったらお金くれるよね?』
過去に俺がやられたことだった。
ボクシング部の安堂の腕力に何もしていなかった俺の力じゃ勝てなかった。
『払うお金の額だけ僕の腕を軽く叩いてね。僕が欲しい金額と一致すれば離してあげるよ』
俺はたしか、3回叩いたはず。
3万円。
それは、教科書を買うためのお金だった。
『ぎゃはははは』
そうやって必死に叩く俺をこいつらは取り巻きのカスと一緒に笑って見ていたんだ。
その後にどこからか沸騰した水の入ったヤカンを持ってきて俺が
『待ってよ』
と言っても
『待つかよ』
って掛けてきたのだ。その後ひどい火傷になったのも覚えている。
それを思い出して更に力を込める。
「お、おえっ!お、お前……千葉……正気に戻れよ……」
「コロスコロスコロスコロス」
「こ、こいつ聞いていないのか?!」
【ホーリーブラスト】
安堂のホーリーブラストが俺の腕に直撃。
俺の腕はその衝撃で安堂の首から手を離してしまった。
「げほっ!」
軽く咳き込みながら俺から距離を取る安堂。
そのまままくし立ててくる。
「ま、待ってくれ千葉。争っている場合じゃないだろう?」
俺がギリギリと力を加えたせいで安堂の首筋には血が滲んでいた。
それを気にしているのか首に手を当てている安堂。
「ち、千葉。提案がある。僕と手を組まないか?」
そう言って手を差し出してくる安堂。
「お前がなぜ生きているのかは分からないけど、ひとつ分かることはある。お前はこの隠しルートを知っていた。つまり、原作の知識があるってことだろ?どうだ?僕と一緒に組んで、魔王を倒しにいく、というのは」
そう言って安堂は俺に右手を差し出してくる。
握手、ということか。
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