第17話 side女神 見落とし

side 女神クオン


「おかしい!おかしい!」


女神クオンはひたすら喚いていた。

その声が外部に漏れていたのか彼女の腹心である、シェラックが入ってきた。


「クオン様どうして取り乱しておられるのですか?」

「はぁ……はぁ……シェラック」


シェラックを睨みつけるような目で見つめるクオン。

その口から驚愕すべき言葉が出てくる。


「白竜騎士団の反応が消えた。黒い牙……全員の反応がなくなった」

「な、なんですと?!」

「あのカス共!我々がどれだけの年月をかけて育てたのか、分かっているのか?!」


クオンはただ怒りで机を叩いた。


「し、しかし誰が」

「それは分かりません。ですが反応がなくなったのは確かです。憎き魔王軍をぶつける大事な戦力だったのに」


物事が上手く進まないことからのストレスか指の爪を噛み始める女神をなだめるシェラック。


「それから、ひとつ懸念があります」


クオンは召喚の間にあの日召喚した勇者たちのことを思い出しながら告げる。


「この前のSランク勇者坂本を召喚した時の術式は誰が用意したものですか?」


クオンは思っていた。

感じていたのだあの日のことを。


ずっと引っかかっていたのだ。


勇者適正のない人物の廃棄。

そんなものはいくらでもしてきた事だが。


千葉 優華。


あの人物だけはいつもと違う廃棄だった。


それがなんなのか今になってようやく分かった。


「あの術式は宮廷魔道士が……」

「今すぐ連れてきなさい!」

「それが辞職したのか数日前から見当たらないのです」

「なぜ、それを先に報告しないのですか?!」


どなりつけるクオン。


それからポツリと呟いた。


「また我々の術式に細工をしたのですか?」


これまでの召喚の儀でもあったことだが。

勇者召喚の儀式、たまに異物が混ざり込んでいた。


その異物、今回の【千葉 優華】は規格外の異物だった。

今までに見たことの無いほど微弱な、取るに足らない存在。


悪い意味での規格外の存在。

普通の人間をA-Eで格付けするならZくらいの格付けをするしかないほどの軟弱な人間。


それが


千葉 優華という人間だった。



「あの男を私は召喚していません。召喚されるはずのない人物」



明かされる衝撃の事実にシェラックは震えた。


「と、言いますと?」

「今回の召喚の目当ては坂本くんを中心にその他数人でした。でも彼らをピンポイントで召喚するのは難しく集団召喚という形を取りました」


ピンポイント召喚には色々な条件がある。

しかし、その条件を満たすのが難しかった。


「いくら精度が悪い召喚と言えど、『あんな軟弱な男』は召喚時に弾かれます」


だと言うのに、今回千葉 優華は異例として召喚されてしまった。


「でもまぁ、彼は死んでいるでしょう」


女神クオンは自分がどこに彼を廃棄したのかを理解している。


これまで攻略報告のないダンジョン。


勇者適性のある宮田ですらすぐにら死んだことも把握しているので、勇者適性のない彼が生き残れないことくらいは理解していた。


それに彼女はの千葉 優華の生死を確認する権利がある。

それから判断してたしかに死んでいるはずなのだ。


じゃあ、なにに怒っているのかというと


「やはり魔王軍の侵入があり召喚術式の改変があったようですね。警備を強化しなさい」

「は、はい!」


たまにあるのだ。

魔王軍の者がここまで入り込んできて召喚術式に改変を行い通常とは違う術式に変更してしまうことが、その改変を見逃してしまったことにクオンは怒っていた。


「私は女神。初めから廃棄するしかない哀れな子羊たちは少しでも召喚時に弾いた方がいいでしょう。私は心優しき女神なのですから」

「はい。これからはもっと警備を強化します」

「そうしなさい。それとネズミの捕縛も早くなさいな。この神聖なる術式を穢した罰を与えるのです」


女神クオンはこの時少しも考えていなかった。


『千葉 優華が人としての生を終え、魔人として生まれ変わっているという可能性を』


これまでのようにこれからも、魔王軍との熾烈な戦いを二つの陣営で続けていく、ということを信じ込んでいた。


そこに、いずれたった一人で二勢力と渡り合える復讐鬼が加わった、『三つ巴』になるなんて、ことは少しも考えていなかったのだ。


そして、手塩にかけて育てた勇者の数を徐々に減らされる絶望もこの時はまだ知らなかった。


既にひとり。

宮田が減っていたが、今はまだそこまで大きな問題ではない。




side 安堂(クラスメイト)


優華を除くクラスメイトには全員SランクからEランクのランク付けが行われていた。


そして、ランク関係なく全員に勇者という適性が与えられて、更に特性として女神の加護というものが与えられている。


原作でもそうだが加護系の特性としては最上位のバフになる。


そして、それはこの世界でもそうだった。


【ホーリーブラスト】


Aランク勇者として認定された安堂は聖なる弾丸ホーリーブラストという魔法を使う。


「ふん。こんなものか」

「さ、流石安藤くん!」

「流石よね!」


そんな安藤の周りに集まるのはクラスメイトの女子たち。

優華以外のクラスメイトは各自、仲のいいメンバーでグループを結成していた。


唯一坂本だけはクラスの不良としてほぼソロ活動をしていたが、それ以外はグループとして行動していた。


しかし、その中でも群を抜いて強かったのは坂本だった。


「ありがとう。でもこんなんじゃ坂本には届かないよ」


坂本は一人で既にAランクダンジョンと呼ばれる場所に足を運び、そこでモンスターを殺し続けているらしい。


勉強にはほとんど取り組んでいなかったのに、こういうことになるとやる気を出しているようだ。


「僕の当面の目的はとりあえず坂本くんに追いつく、かな」


そうやってクラスメイトに語る安堂。


そういう目標があるからか安堂は誰よりも努力をしていた。

しかし、徐々に彼の性格は歪んできていた。


「君たちも努力しなよ?じゃないとチバるよ」


彼らの中では既にチバるという言葉が定着していた。


そのままの意味だ。

優華が迎えた結末をチバると言っているのだ。


「廃棄されたくなかったらとにかく、努力だね」


そう言って安堂はレベリングを再開した。


それに釣られるように同じくレベリングをするクラスメイトだったが、その時。


安堂の目に白金の姿が入った。


今一番廃棄に近いとされている人物だった。


あの後女神は勇者適性があったとしても余りに使えない者は廃棄することを発表したのだ。


白金はSランク勇者だったが女神に反抗したため、目をつけられていた。


彼女は他に廃棄されそうな低級勇者を自分のパーティに引き入れていた。


白金と坂本を省いたS級勇者は他にまだ二人いて、そいつらは高い勇者適性の奴らを集めてグループを組んでいた。


現状安堂は坂本どころかその2パーティにも大きく遅れを取っていることに納得が出来ない。


安堂は口元を歪めた。


「ねぇ、白金さん」

「なに?安堂くん」

「僕と手を組まないか?」

「ごめん。安堂くんとは上手くやれないとおもう」


そう返された安堂だがやはり白金の実力は欲しくて続ける。


「チバりたいの?白金さん後がないんでしょ?女神も言ってたじゃないか。余りに使えないようであればSランクであろうと廃棄する、と」


何も言えなくなる白金に続ける安堂。


「今度ミストラルの街に出向くんだ。で、女神様が言ってたよ。白金さんのグループもそれに、行かせるって」


そこで口を歪めて続ける安堂。


「目的はミストラルのダンジョン攻略。どっちが早く攻略出来るか競争しようよ。そんで僕が勝てば白金さんは僕と組むでどうかな?」

「私が勝てば?」

「白金さんの言うことを聞くよ」


安堂は自分が勝てるのが分かっていてこんな賭けをしていた。


だが白金としてもこの状況を覆せる一手にも見えた。

ここで安堂の一派を自分の傘下に入れることができたら、と思うのだ。


だから


「分かった」


ここに賭けは成立した。


安堂は下卑た笑みを浮かべる。

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