第19話 小さな一歩

手を差し出してきて握手を求めてくる安堂。


「どう?このルートを知っているのは原作をプレイしている、ってことだろ?さらにお前は廃棄から生き延びるだけの知識があった。原作をプレイした僕達二人なら坂本だって出し抜ける」


差し出された手を見て思い出す。


『握れないのかい?千葉?僕達、友達だよね?』


たまにこうやって差し出してくる安藤の手。

握っても握らなくても地獄だった。


握ればボクシングで鍛えた握力で思いっきり握られるし、握らなかったら今度は殴られる。


そして握ったら握ったで


『千葉菌が付いちまったきったねー』


なんて言い出す。

それがどれだけ嫌だったか。


でも、今回俺は安堂の手を握って。


「ぎゃぁぁあぁぁあぁあぁぁぁあぁぁ!!!!!!!」


思いっきり握り潰した。

安堂の手の骨がバキバキに折れていたし、骨だろうか?が手の皮を突き破って出てきていた。


そのせいで血が俺の手に付着した。


「汚ないなぁ?なぁ?」

「な、なんなんだよぉ?!」


今ので完全にビビったのか後ずさろうとする安堂。

自分の手を庇うように下がっていく。


それを笑顔で見ながら安堂との距離を詰めながら話しかける。


「どうして距離を取るの?酷いなぁ安堂くん?俺たち、友達じゃないの?」


ブンブンと首を縦に振ってくる安堂。


「良かったぁ。そうだよね。俺たち友達だもんね?」


今度は俺からまた手を差し出す。


「もう一回握手しようよ?ねぇ、安堂くん?」


その手を見て顔から汗をダラダラと垂れ流す安堂を見て内心ほくそ笑む。


こいつの内心は俺とは比べ物にならないくらいパニックになっているだろう。


初日に廃棄され死んだと思っていた俺が生きている。

更には俺はどこでどういうわけか、力を付けてきた。


そんな俺をこいつはいじめていたんだから。これからどんな復讐をされるか、と考えたら汗が止まらなくなるのも理解できる。


「なぁ?安堂?握手してくれないのかい?」


俺は安堂のセリフを思い出していた。

あの時こいつが言ってきた言葉をそっくりそのまま返してやることにしよう。


「友達なんだから握手くらい出来るよな?なぁ?」

「ひぃっ!」


ついに情けない悲鳴を出してその場に座り込んでしまった安堂。

そんな安堂の残った方の手を掴み、また力を込めた。


「うぎゃぁあぁぁあぁぁああ!!!!!!!!」


安堂が叫ぶ。

その叫び声を聴きながら安堂を立たせた。


そしてその安堂の首にもう一度手を持っていき宙に浮かせる。


あの時の再現をしてやろう。


「は、離してくれ……」

「離して欲しいかい?なら俺から貰った金額分だけ俺の腕を叩きなよ」


トントントントントントントントントン。


「あ、合ってるかい?」

「足りないよね?」


そう言って掴んでいた安堂を壁に投げつける。


「がぁっ?!」


急に叩きつけられたことによるものか、血を吐き出す安堂の近寄って、最後にひとつ。聞くことにする。


「なぁ、質問があるんだよ」

「こ、答えられることなら……」

「ロード・オブ・デッドって知ってるかい?」


首を横にブンブンと振る安堂に答える。


「俺の特性ギフトだよ」



そう答えるとそのとき、ギフトが発動してこの場の地面が割れた。


ボゴッ!

そこから湧いてきたのはモンスター。


ウルフだった。


ここで命を落としていったウルフたち。


そんなことは直感的に分かったし、俺が来いと命じるだけで俺の配下達はこうやって集まってくるのも本能のようなものが教えてくれる。


俺の可愛い忠犬が安堂を複数匹で囲っていく。

口からはヨダレを垂れ流しながら食事はまだか、と近寄っていく。


「な、なんだよこれ……」


俺は安堂から離れる。


「ま、待ってくれよ。千葉?」


そう声をかけてくる安堂に最後に振り返って答えてやる。


「本気で俺が待つと思ってるわけ?」


振り返りながら本来の目の色を赤い目を見せてやる。


「ひ、緋色の目……ま、魔人だと……まさか……。魔族化に成功したっていうのか……?」


原作をプレイしていてこの目を知らない人間はいない。

やはり知っていたようだな。


それから、俺はウルフに目をやって告げる。


「やれ。全てお前らの餌だ」

「ま、まっ!うぎゃぁあぁあぁぁぁぁあぁ!!!!!」


俺は安堂の悲鳴と鳴り響く咀嚼音を後ろから聴きながら隠しルートを進んでいく。


残る勇者は何人だろうか?

あれから何人か死んだのだろうか?


とにかくあのクソ女神を守護する勇者が一人消えた。

これで俺の大本命への復讐は一歩近付いたのだ。


これは小さくて大きな一歩。


そのことにほくそ笑む。


初めての勇者殺しに静かな高揚を覚えた。


勇者を殺されたと知った時のあのクソ女神の顔を今すぐにでも見てみたいなぁ?



このダンジョンに来たのには理由がある。

俺は原作の流れを無視して、立ち入りを禁止されたエリアに向かおうと思っている。


原作では設定だけが語られていたエリアがこの世界にはある。


それは禁断の地、と呼ばれる場所。

今まで歩いてきたダンジョンとは比べ物にならない程危険な生物が蠢く場所。


魔王ですら手を出せないモンスターがうじゃうじゃと住み着いてしまったエリア。


それが禁断の地。

そこには理性を奪い生物を凶暴化させるガスが充満していると伝えられており、このダンジョンにはそれを無効化する鉱石がある、という話だった。


結局原作では向かうことのなかった場所だが。


「女神を殺すためのなにかがあの場所にはあるはずだ」


原作ではなかった女神殺しルート。

どれほどの難易度があるのか分からない。


それを行うには十分な準備が必要なはずだ。

やれることはやる。


「禁断の地に幽閉されている、という大魔術師」


その存在についても思い出した。

かつて女神クオンと争ったとされる設定だけが語られた大魔術師。


そいつはクオンに破れ、禁断の地に幽閉された、という設定だけがあった。


「危険は承知だが、実際にクソ女神と戦った人物だ。話くらいは聞かせてもらおう」


考えをまとめた俺の後ろから何かが迫ってくる音が聞こえる。

それはここのフロアボスのデスワーム、だったが


「今考え事をしているんだ」


俺が剣を投げると絶命するここのフロアボス。

ボスが弱いのでは無い。


俺が強いのだ。

それを確認して頷く。


「禁断の地、もうあそこに行けるくらいの実力はあるだろう」


俺はこのダンジョンを後にする。


後はまだ見ぬ禁断の地へ向かうだけ。


見知らぬ、高難易度の地帯。それだけにまだ欲しいものがあるな。


「案内人でもいればいいが……」


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現在の転移組の生き残り(公式)

・37/40


死亡者リスト

千葉 優華

宮田 太郎

安堂 優作

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