第15話 更なる段階
「我々黒い牙を全滅……か。ふははは。はーはっはっは。大きく出たな?小僧」
原作では人類最強とまで言われた男。
バランの黒い牙所属のジーク。
俺はそんな原作で最強論争に上がるようなキャラを前に立っていた。
(今までのどんな敵よりも威圧感があるな)
俺は魔人になり生命として高みに立てた、とそう思っていた。
でも、それは思い込みに過ぎなかったのかもしれない。
俺の本能が訴えてくる。
『こいつは、強い、と』
さて、どうするか。
俺の手持ちは【ロード・オブ・ブラッド】という未だによく分からない特性だけ。
『ファイア!』と唱えれば魔法が飛んでいき、敵が倒れるみたいなことはない。
色々勝ち筋を模索してみるが。そのときレイナが間に立つ。
「逃げてくださいユーカ。あなたまで巻き込むなんてことはできません」
「そうは言われてもな」
向こうは俺を見逃す気なんてないように見える。
それを証明するかのようにジークは自分の隣にいた男にこう口を開いていた。
「カイン。バランに伝えておけ。俺はここで、剣聖と呼ばれた女を殺す、と」
「じ、ジーク様?剣聖の捕獲は生きたままとのご命令がありますが」
カインと呼ばれた男はジークに声をかけるがジークにその言い分を聞くつもりは無いようだ。
「黙れ。俺が殺ると言えば殺る」
そう言って剣をレイナに向けるジーク。
それから俺にも目を向けてきた。
「と、言いたいところだがな。今俺はお前に興味があるぞ、クソガキ。俺を前にして一歩も退かぬその威勢、見事である」
レイナに向けていた剣を俺に向けてきた。
「先に訊ねておこう。何者だ?言っておくが嘘は効かない」
嘘が効かないタイプか。
この前レイナで散々実験をしたからこの世界にはそういうタイプの人間がいることは把握している。
「グリザック王国から来た人間さ」
黙って本当のことを告げた。
「嘘が混じっているな。正直に言え」
嘘?
俺なにか間違ったこと言ったか?
とにかく、もう一度言葉を選び直す。
「何を言っているか、分からないんだが。俺はグリザックから来たユーカという者だ」
「ふむ。嘘ではないようだな」
そう言ってこう言うジーク。
「貴様が人間でないことは分かった。今の二つの言葉、違うのは人間と者という言葉だけ。そこが違っていたようだな」
そう言って俺にノーモーションで槍を突き出してきた。
「ユーカ?!」
直前で避けたおかげで致命傷にはならず肩を貫かれた程度で済んだが
(再生能力がまた機能停止している……)
俺の肩の傷はまたその再生を停止していた。
こいつ……強い。
原作ではゴミのように扱われていたが、違う。
この世界では人類最強、として相応しい実力を持っている。
今の俺で勝てるか、どうかは、分からない。
激痛に呻きながら伏せていた顔を上げた。
「緋色の目……魔人か」
目の色が変わったのを……見られた。
ジークが呟いた瞬間ざわめき出す黒い牙の連中。
「ま、魔人だと?!な、なぜこんなところに」
「ジーク様!討ち取りましょう!」
連中の言葉に頷くジーク。
「うむ。いいだろう。この魔人、どういうわけか、未だに
低級と言われたことになぜかカチンときた。
こいつも……俺を無能と罵る気か。
あの女神のように……?
「ははは……」
乾いた笑いが出た。
「どうした?低級魔人。人類最強の矛を受けてやることもなく、笑うことしかできないか?そうだ。もっと絶望しろ。その苦痛に歪む顔を俺に見せてくれ。命乞いをしろ」
「げほっ!」
血を吐きながら立ち上がる。
これが……人類最強とまで呼ばれたジークの力か。
こんな序盤で会うような敵ではないのだけは分かるが、ここでの敗北=死だろう。
こんなところで、使うつもりなんてなかったんだが。
アイテムポーチからスケルトンの髄液の入った注射器を取り出すと即座に心臓の辺りにぶっ刺して注入。
「貴様?何をしている?」
その様子を黙って見ていたジークに問いかけられた。
「見てりゃ、分かるさ」
魔人のダブルですら成功確率はとんでもなく低いものだった。
その先、仮に【トリプル】とでも呼ぶべきものはあるのかも分からない。
原作では語られていない設定だったところだ。
しかし、俺は今。
その領域に片足を突っ込んだ。
後は俺の頭を撃ち抜くのが空砲か、銃弾か。
致死率ほぼ100%のロシアンルーレット。
「ひとつ問おうか、人類最強の男……」
ヒュー、ヒューと呼吸が荒く、細くなる。
今までに混ぜてきた血が新たに注入されたスケルトンの髄液と三つ巴の戦いを俺の中に繰り広げているようだった。
「かはっ!」
口から血が出てくる。
【トリプル】
あるかも分からない進化段階はこれ程までに苦しいものだったのか。
だが、直感で分かる。
俺はこれに成功すればこのジークより上に立てるのだ、と。
俺は先程の質問の続きをジークにする。
「絶望ってどういう感覚だ?教えてくれないか?」
そのとき、俺の頭をハンマーでぶん殴っていたかのような頭痛が突如に消えた。
この感覚は二度繰り返した。
だから、分かる。
俺の足元から黒いオーラが波紋のように広がっていく。
「ついでに、苦痛に呻く顔ってのも見本を見せてもらっていいか?お前に見せるのに粗相があっては困るからな?」
その様子を見ていたジークが他の竜騎士に指示を出していく。
「や、やつを止めろ!!!なんとしてでも止めろ!!!!こ、これは!まずい!こんなものを野に放てば!!!カイン!さっさと殺せ!はやく!手遅れになる!!!」
ここに来てやっと見せたジークの焦りの色。
そして絶望が少しだけ浮かんでいる気がする。
それを見て呟いてやる。
「それが、絶望の顔ってやつ?」
「おのれ!槍術スキル!」
【カインの突撃槍LV5】
カインが弾丸のように迫ってきて槍を突き出してきた。
それを俺は腹に食らった。
「や、やったか?!」
そう叫びながら飛び下がるカインに告げてやる。
「敵の生死は確認してから撤退しなよ」
槍を腹から引き抜く。
すぐに再生が始まる。
それを確認してから俺はありったけの力でカインの腹に同じように槍を投げつけた。
「かはっ!」
その場で膝をついて倒れるカイン。
一撃で絶命したようだ。
それを見てから本命の人類最強、ジークに目を向けた。
「約束通り、このままお前をぶっ殺して次の目的地に向かわせてもらおうか?」
ジークの方に歩いていく。
先程ジークから受けた傷も既に再生を開始していた。
魔人としての位階が上がると相手のいかなるスキルも魔法も無効化できるようだ。
「な、なんだ、この魔人は……」
余りのことに思考回路が追いついていないのかそんなことを聞いてきたジークに答えてやる。
「俺は【トリプル】って呼んでる」
これが、俺の新たな
【特性が変化しました】
【ロード・オブ・ブラッド】
↓
【ロード・オブ・デッド】
ニヤッ。
この特性も試させてもらうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます