第14話 律儀

次の目的地に寄る道中。宿の店主に依頼された場所まで来ていた。


「俺も中々律儀なものだな」


こっちの世界で生まれた人間なら持ち逃げするだろうが俺は日本人。

当たり前のように持ち逃げせずに頼まれた依頼を消化した。


依頼はゴブリンのような雑魚を数十匹倒すだけのもの。

剣を振り回していたら勝手に終わる程度の難易度だった。


しかし、寄り道していたせいで森の中で夜を迎えることになってしまった。


パチパチと音を出す焚き火の炎を見ていた。


そうしながらふとキャンプファイヤーのことを思い出した。

学校のなんとか旅行で行った時にやったキャンプファイヤー。


それから


「クラスメイトは何してんだろうな」


クラスメイトのことを思い出していた。

俺を見捨てた奴ら。


俺が逆の立場でも見捨てるから別に恨んじゃいないが。


まぁ、考えても分かるわけじゃないし、寝るか。



翌朝、というより起きたら昼だった。


「よく寝たな」


立ち上がりなら周りを見ると


「うおっ……なんだこれ」


俺の周りでモンスターが寝ていた。

ウルフ、ゴブリン、などなど何種類かのモンスターが気持ちよさそうに寝ていた。


「ミノタウロスだけじゃないのか従えるのは」


そんなことを思っているとやがて起きてくるモンスター達。

観察していると俺に土下座してきた。


「ロード」

「ロード」


とまた謎の掛け声。

まるで俺を神様のように崇めているように見えるが、やはりこれは俺の特性によるもの、と考えていいのだろうか。


俺は別に神様でもなんでもないんだが。

そう思いながら歩いていた時だった。


空が騒がしい。


「女はどこへ行った?!」

「分からん!探せぇ!!!」


白竜に乗った奴らが右に左にと大忙し。

戦争でもする気かよ?とか思いながら歩いていた時だった。


ガサッと草陰で物音。

そちらに目をやるとレイナと目が合った。


「しーっ!」


声をかけるつもりもなかったが必死に俺に黙るようにジェスチャーしてくるレイナだったが、その時。


バサッバサッと、白竜が降りてくる。その背中に乗った男が竜から降りると先程レイナがいた場所に向かっていった。


「剣聖レイナ、だな」


と声をかけられている。

ガサッと出てきて剣を抜くレイナ。


「しつこいですね。いったいなんの用なんですか」

「用?ははっ。ははは。まさかとぼけるつもりなのか?お前は」


笑われるレイナの横を俺は絡まれたくないし素通りしようとしたが、男が俺に目を向けた。


「おい、貴様。何を動いている?誰が動いていいと言った?」


そう言いながら槍を俺の目の前スレスレで投げてきていた。


「俺が動くのにお前の許可がいちいち必要か?」

「あぁ。俺たちを誰だと思っている?バランの【黒き牙】だぞ?」


そう言ってくる男。

そのまま聞いてもいないのに名乗ってくる。


「俺はムリア。黒き牙3番隊の副リーダーさ」


と名乗ってくるムリアの横を更に通り過ぎようとしたが、今度は剣を向けてきた。


「動くな、と言ったのが聞こえなかったか?クソガキ。教育してやろうか?」


そう言ってくるムリアだったが俺の視界にはログが更新されていた。


【ロード・オブ・ブラッドが発動しました】


それを見てからムリアの方を見ると彼の乗っていた白竜と目が合った。


それを見て察したので口を開く。


「じゃあ、俺からもいい?」

「あ?」


訝しむ男。


「お前も動くなよ?」

「俺は動いていい」


そう言って左右に動き始めるムリアが突如白竜に頭を食いちぎられた。


「だから言ったじゃないか、動くな、と」


今度こそ止める人間がいなくなったので歩いていくことにするが、ガサッと飛び出してきたレイナ。


「な、何をしたのか分かりませんが、あ、ありがとうございます!」

「俺は何もしてない」


ただ白竜がやっただけだ。


そう思いながら歩いていこうとした、その時だった。

ヒュン!!!!!!!!


感じる殺気。

一応レイナを抱えて横に飛び退いた。


ズガガガガガガガガ!!!!!と地面が抉れていく。


(魔法か?)


そう思って見ていたが、違う。

というより、


「だ、大丈夫なのですか?その右手」


聞いてくるレイナ。

俺の右手はあの攻撃に当たって指が普通は曲がらない方向を向いていた。


「まぁ、食いちぎられるよりはマシだよ」


慣れとは怖いものだ。

ミノタウロスに足を食いちぎられるのに比べたら他の攻撃は何も思わなくなっていた。


そう答えながら今の攻撃をしてきたやつに目をやると、そいつはバサバサと先ほどみたいに白竜と共に降りてきた。


「じゃ、俺はこれで」


バランの黒い牙という話は聞いている。

こんなヤツらに絡まれる前に逃げようとしたが、当然と言ったように許されなかった。


「待ちたまえ」


そう言って俺を見てくるロン毛の男。


「ジークだ」


ジークと名乗った男。

その名で思い出した。


黒い牙の全ての竜騎士をまとめあげる男の名前を。

それが


ジーク、という男の名前、ということを。


設定で少し触れられた程度の男だったので忘れていたが。


(やばそうだなこれ)


俺は先程の攻撃でえぐれた地面を見ていた。

槍を投擲したことによって抉れていたが、普通にやってこうはならんだろう。というえぐられ方。


「ムリアのやつは白竜に食われたようだな」


そう言ってくるジークの乗ってきた白竜と俺の目があった。


白竜が口を開けようとしていたが、


ズパン!!!!!!


ジークは白竜の首を簡単に斬り落とす。


「白竜が我々竜騎士を襲うなど聞いたことがないな。恐らくお前がよく分からない幻術でも使っているのではないか、と推測するが」


と俺を見てくるジーク。

そんな俺とジークの間に割って入るレイナ。


「か、彼は関係ないでしょう?解放してあげてください」


そんなレイナのセリフを聞いて顔を歪めるジーク。


「だ、そうだが。君は女の子を残して逃げるようなやつ、なのかね?」

「普段なら逃げてもいいんだが」


俺は上空を見た。

徘徊していた白竜に乗った竜騎士の視線が全て俺たちに向けられていた。


つまり


「そもそも逃がす気ないよな?これ」


なら話は決まっている。


呆れて顔を伏せた。


「お前ら全員ぶっ殺してそれからゆっくり行くことにするさ」


顔を上げてジークを睨みつけながらそう口にする。


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