第12話 隠しマップ

「そこの人」


声をかけてきた人物を見ると、そこに立っていたのは剣を構えたレイナだった。


そしてレイナは俺を見るなり目を見開く。


「ゆ、ユーカ?!」


俺がここに居ることがそんなに不思議なことらしい。


剣を収めて俺の方に近寄ってくる。


「お、お願いします。その宝玉を譲ってくれませんか?」


真面目な顔で訊ねてくるレイナに頷く。


「いいよ」


そうして宝玉を渡した。


「え?」


俺の顔をまじまじと見つめてくるレイナ。


「欲しいって言ったのは君だろ?さっさと持って帰りなよ」


肩を竦めてそう言ってみる。

これ以上いられても正直邪魔だし。


「か、帰れって言われても。ゆ、ユーカも帰るんじゃないのか?」

「俺はまだやることがある」

「やる事ってここ、『最終フロアだよ?』」


たしかにそうだ。

アイオンダンジョンは20階層で終了。


でもそれは


『表向きの話』


ストーリーしかやっていない奴の共通認識。

だがこのダンジョンには


「俺は裏に用があるんだよ」


そう言って龍の象の口の中に手を突っ込んだ。

そうして喉元にあるボタンをポチッと押すと。


ズガガガガガガガガと龍の象が台座ごと動いてそこには


「ち、地下に通じる扉?!」


レイナの言葉の後に表示されるウィンドウ。


【アイオンダンジョンのEXマップが更新されました】


この先に通じるのは一握りの人間しか知らないEXマップ。


原作でもかなりの難易度を誇った隠しマップ。

裏ダンジョン。


「だから、レイナは帰りなよ」


そう言って俺は一足先に階段を下っていくことにするが、


「同行しますよ。ユーカ」


とレイナも降りてこようとしていた。


「ド直球に帰れ、と言った方が良かったか?」

「ユーカ。あなたはアイオンダンジョンで怪我をしましたよね?」


俺が怪我したのは唯一トラップによるものだった。あれの血の跡がベットリと装備についていた。

それで、か。


「私はヒールができます。同行しても足を引っ張らないかと」

「好きにしなよ」


そう返して俺は階段を降りていく。

このタイプは何言っても意見を変えないのは知っている。


俺もゲームくらいやったから分かるけど、現実世界でもNPCばりに同じことしか言わない人ってのはいるものだからな。


「薄暗いですね」


地下に降りて開口一番そう口にしたレイナ。


「そうか?」

「?」


俺の顔を不思議そうな顔で見てくるレイナ。


「なに?鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

「い、いえ」

「行くよ」


裏マップを進んでいく。


ここはアイオンダンジョン裏の一階層。


黙って歩いていると目の前に扉が現れた。


「ボス部屋だ」


裏マップでは雑魚モンスターがほとんど出てこない。

基本的にボスとの連戦だ。


原作の通りなら。


「ボスに挑む前に一旦休憩しようか」


俺はレイナの右手を見てそう言った。

怪我をしているのはお互い様、というわけだが。


そこでレイナはこう言ってきた。


「目が赤いですよ」

「っ?!」


咄嗟に飛び下がった。

なんだこいつ……。


「嘘ですよ」


そう言われて鎌をかけられたことに気付いた。


「魔人、ですか?」


そう聞いてくるレイナ。


魔人かも?なんてレベルじゃなくてほぼ確信しているような目だ。


「たまたま……とも思いましたが。今の視線は私が右手を怪我しているのを知ってるんですよね?」


もう誤魔化しても無駄か。


「だとしたらなに?」


俺が言うと彼女は魔法を解除した。

すると、そこには長い耳があった。


今まで見ていた姿は幻覚魔法、ということか。


「別に誰にも言うつもりはありませんよ。あなたには恩がありますから」


そう言って俺を見てきて続ける。


「休憩は必要ありません。行きましょう。それともご自分が休憩したかっただけ、とか?」


挑発するようなことを口にしてくるレイナ。


挑発に乗るわけじゃないけど、まぁいいか。

俺も気を遣い過ぎた、というわけみたいだし。


そうして一層目のボスを撃破して更に進んでいく俺たち。


俺はレイナに聞いてみることにした。


「レイナは何者なんだ?」

「ユーカ自信がその質問に答えてくれるのなら私もお答えしましょう」


そう言ってくるレイナ。

適当なことでも言って聞き出そうかと思ったが


「私に嘘は効きませんよ?そういうの分かりますので」


それが本当かどうか試してみようか。


「すごい辺境から来たって言ったよね?」

「嘘ですよね」


どういう訳か見破られたらしい。

いや、待て鎌をかけている可能性もある。


「昨日の晩御飯のスープは絶品だったよ」

「本当のようですね」


どういうわけか俺が嘘をついてる本当のことを言ってる、というのは分かるらしい。


最後にひとつ、俺にしては珍しく笑顔を浮かべて


「レイナのことが好きだ!結婚してくれ!」

「私の事いじめて楽しいですか?」



第3層のボスフロアまでたどり着いた。


「気をつけろ、レイナ。ここで最後だが、戦闘難易度が一段階上がる」


原作の難所の一つだったので、そのための注意をレイナに先にしておく。


こいつは俺が魔人ということに気付いている。

今更ネタバレのひとつやふたつ気にしないだろう。


「はい。なぜ知っているのかは分かりませんが」


そう答えてくるレイナ。

やはり俺の言葉が嘘かどうかは分かるが、それ以上のことは分からない。ということか。


だから魔人かどうか確認を取った、というわけか。


唯一誤魔化す手段があったとすれば沈黙、が正解だったようだが、もうバレた以上誤魔化すのも無駄だろうし、俺としてもレイナが完全に敵だとは思えない。


「ユーカは戦闘が苦手ですよね?」


そう問われ俺は魔法も何も使えないことを伝える。


「なるほど。では剣術のみでいきましょう」


そう言って彼女は前に出る。

俺達がここで対戦するのはスケルトンキングというスケルトンの王。


通常のスケルトンが長い年月をかけて変化していくとこうなるらしいが。


「ぐぅっ!」


スケルトンの張り手を食らってこっちまですっ飛んでくるレイナ。

その体を受け止めてやった。


「口だけじゃないとこ見せてくれよ?」

「はい、口だけではないですよ」


そう言ってまた弾丸のように走り出したレイナ。


だったが。


スケルトンキングと目が合ったのは俺だった。


「ガラガラガラガラ」


鳴き声のようなものを出して俺を見てくるスケルトンキング。

なんだか、嫌な予感がするな。


原作ではなかった反応だった。


原作のスケルトンキングは一番近いキャラにしか目がいなかった。


つまり、この後の行動パターンは俺の知識では。


分からない。

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