第11話 検証
正直俺が最前線だと思っていたが、どうやら先客がいたようだ。
「1時間もすれば奴がここを通るはずだ」
声が聞こえたので思わず壁に身を隠して通路の先を覗き込むようにして少しだけ身を乗り出す。
盗み聞きだ。
(この声、マルクか)
奴は先発として一番最初にこのダンジョンに来ていた。
それからしてここにいるのは、別に不思議な話ではないか。
そう思いながら盗み聞きを続行。
「しかし、マルクさんが俺に依頼だなんて。いいんですかい?こんなに」
「いいに決まってる」
そう言っているマルク。
なんの話をしているのか分からないがもう少し聞いてみるか。
「レイナ。奴を捕らえよ。奴はこのクエストに参加しておりもうすぐにくるのだ。ここで待ち伏せして拘束しろ」
「そんなことでいいんですかい?」
「あぁ、あいつは僕に恥をかかせた。このマルクに恥をかかせたのだ!断じて許せん!」
あのことを未だに根に持っているようだ。
どう考えてもマルクが人違いをしたのが悪いだろうに。
そう思いながら俺は壁から姿を表して足音を鳴らしながら近付く。
わざと人がいる気配を出して歩いているので即座に振り返るマルクたち。
「何者だ?!」
俺を見てくるマルクに答える。
「ユーカって者さ」
「そ、その声!忘れもせんぞ!貴様!この僕をオジサン呼びしたやつだな?!」
覚えていてくれたらしい。
あれだけ人がいて色々言われたのに俺の声をわざわざ覚えていてくれたようだ。
マルクと男が目を合わせた。
「そのふざけたガキを先に潰せ!」
マルクの指示で弾丸のように飛んでくる男。
「悪ぃな?!ガキ!恨みはねぇが聞かれた以上は……」
バキッ!
俺の回し蹴りで男は吹き飛んだ。
「ガハッ!」
壁に叩きつけられているようだがまだ呼吸ができるらしいが、立ち上がれそうにないな。
そんな男を見てから俺はマルクに近寄る。
「よ、寄るな……寄るな……寄るな……」
そう言って後ずさるマルク。
残念だ。
もう戦意喪失したらしい。
まぁ無理もないか。
マルクはしょせん序盤のキャラだ。
実力などは大したことがない。
それに加えて俺は原作でも数がいなかった魔人の【ダブル】。
できることと言えばアリのように逃げ回る事くらいだろうから。
「試させてもらおうか」
ずっと気になっていたことがある。
俺は右手を地面から水平に持ち上げて告げる。
「ロード・オブ・ブラッド」
この特性について、だ。
ソウルイーター戦では特に気にする事はなかったが、この特性もまだ検証が済んでいない謎の特性だ。
ついでにここでどんなものかを知っておきたい。
【特性:ロード・オブ・ブラッドが発動しました】
表示された瞬間俺の背後から声が聞こえる。
「ロード」
「ロードォ」
「ロード!」
声が聞こえて小さなミノタウロスが3匹現れた。
俺が初めて相手にしたミノタウロスは5メートル程あった気がするが、このミノタウロスは小さい。
2メートルあるか、ないかくらいだし。
威圧感もない。
味方にするには不安が残るが、それでも十分だろう。
そいつが俺の横に立った。
でもマルクの目は俺を見ていた。
「ひ、緋色の目……貴様……」
おかしいな。
目は抑えていたはずだが、元に戻ってしまったようだな。
日本語が通じるか分からないがミノタウロス達に指示を出す。
「やれ」
声を出しながら俺は分かりやすいように右手で全身の合図を出した。
マルク達に向けて。
「ブモォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
一匹のミノタウロスが依頼されていた男に走りよって動けない男の顔を棍棒で粉砕する。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
断末魔を上げる男。
それから残り2匹のミノタウロスに目を向けられるマルク。
逃げようとしていたが
「ブモォォォォォォォォォォ!!!!!」
いつだかのように一匹のミノタウロスが投げた棍棒が足に直撃して、バキバキバキバキバキ!と骨の砕ける音が聞こえてきた。
「ぎゃっ!」
悲鳴をあげてドサッとその場に倒れるマルクに駆け寄るミノタウロス達。
(死んだな、こいつ)
それを横目に先に進むことにした。
そのとき、カチッ。
何かの音がなったと思って下を見ると床が一部凹んでいた。
「ははっ!罠だ!道連れだぞ!クソ魔人!人のフリをしやがって!」
マルクが教えてくれた。
横の壁の穴から飛んでくる槍。
それが俺の首に刺さったが、直ぐに引き抜いた。
「へぇ、面白いもの作るね」
「はっ?」
引き抜いた槍を投げ捨てると直ぐに俺の傷は治った。
それを見てマルクの顔色は真っ青になった。
この表情の変化はミノタウロスに囲まれていることによるものなのだろうか?
「魔人だからこの程度の傷はすぐに治るんだよ、ざんねん」
「い、いくら魔人でもその回復能力は……お、おかしいだろうが……」
その後の言葉は続かなかった。
ミノタウロスがマルクの頭を叩き潰したから。
そうやって潰している間も
「ロードォ!」
と叫んでいた。
なにかの掛け声なんだろうか?これは
とか思いながら俺は先に進むことにした。
「ロード・オブ・ブラッド、か」
分かったことがある。
俺の第一血液はミノタウロスのものだった。
それから、考えてこの特性は自分の中に入れた血の種族を味方にすることが出来るというものなのではないか?と思う。
一度目のミノタウロスも今回のミノタウロスも無事に扱えていることからそういう仮説を立てたが。
(間違ってないと思うんだよな)
しかし分かりづらい特性だよな。
もっと分かりやすいのが良かった。
正直モンスターを味方に付けられるとかより魔法を使わせて欲しいんだが……まぁないものねだりをしても仕方ないか。
(あとは、注意点としては特性を発動すると目の色が戻ること、だろうか)
そんなことを思いながら俺は20階層までやってきた。
マルクより先に進んでいた人間はいなかったようでここまで誰にも会うことは無かった。
それに後続には悪いことをするが、道中のミノタウロスに時間稼ぎをするように指示を出しているので、中々進んでこれないだろう。
そして俺はアイオンダンジョンの最奥のフロアに辿り着いた。
目の前にはドラゴンの象が何かの宝玉を噛んでいた。
これがこのダンジョンの宝玉らしいが。
手を伸ばし。
グッと引き抜いた。
そのとき、俺の後ろから足音。
「ま、間に合わなかった……のか?」
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