第10話 ダンジョンへ
初めての宿で休眠を取った俺は広場に来ていた。
今日から始まるダンジョン攻略のパーティメンバーの募集。
それの説明会が行われるからだ。
説明が始まる前のちょっとした時間、どうやって暇を潰そうかと思っていると、突如俺の後ろにノッポが立ったようだ。
俺の目の前に映る影で分かった。
「おやおや、ここに似つかわしくないお方がいますなぁ?」
そんな声が聞こえてきた。
まさか、俺の事か?と思って振り返ったが、男が見ていたのは別の人物だった。
まぁ、それもそうか。ここまで俺は目立つような真似はしていない。
そんな俺がクソ女神以外に目をつけられる理由もないだろうし。
「エルフの剣聖様?以前、この僕マルクとのお食事会を断って何をしているのかと思えばこんなところで冒険者ごっこ、ですか?」
そう言って男は女の人に声をかけていた。
その声をかけられているのは
(レイナ?)
見知らぬ人物ではなかったので見届けていると
レイナはマルクに振り返って口を開いた。
「人違い、ではありませんか?剣聖?私がそのような人物に見えるのですか?あなたは」
「は?えっ?!ひ、人違い?!」
そう言って慌てるマルク。
俺はそれとなく言葉を吐いてやる。
「お食事会を断られた、か。年齢を考えなよオジサン。そんな若い子が食事するわけないだろ?」
今この場には説明会のために沢山の人が集まっていた。
誰が話したかは分からないだろう。
「お、オジ?!」
そう言っているマルクだったが、俺の一言があったからか誰もマルクに同情していなかったようだ。
「人違いをしたのにまだ謝罪もなしなのか」
「俺なら恥ずかしくてこの場にいられねぇよ」
そんな言葉が聞こえてきてマルクは顔を真っ赤にしていた。
「こ、この!お、覚えていろ!」
そんな悪人みたいな言葉を残してマルクは去っていった。
すげぇ、覚えてろ!みたいなこと言うやつ生まれて初めて見たよ。
(しかし、エルフか。そう言えばこの前の盗賊団もエルフの女、と言ったよな?)
ということを思い出しながらレイナの顔を見たが、彼女の耳は尖ってはいない。
この世界の情報は集めたがエルフの耳はやはり尖っているようだが。
なんてことを考えていると今日のメインの話が始まる。
説明会だ。
簡単に聞いていたがアイオンダンジョンに向かい、ダンジョンの最奥にある宝石を持って帰ってくるのが今回の内容らしい。
まぁ、俺は宝石はいらないが。
そうして話を聞いて解散することになった。
俺は誰よりも先にダンジョンに向かおうとしたが、声をかけてくるレイナ。
「先程はどうも。ユーカですよね?言ってくれたのは」
「さぁ?」
これ以上絡む必要も無いので足早に離れようとするがそれでも着いてくるレイナ。
健気なことだ、と思う。
もう、話す気は無いと言っているようなものなのに、それでも着いてくるなんてな。
だが忠告しておく。
「俺に必要以上に絡むな。無駄にケガするぞ」
「え?」
そんなこと言われるのが意外だったのかその場で立ち尽くすレイナだった。
これ以上何か言われるのも嫌なのでフードを被ることにした。
俺はあくまでたくさんいる内のモブキャラのような見た目でいい。
目立つのは避けよう。
◇
アイオンダンジョン。
単身でアイオンダンジョンへとやってきた。
俺としてはさっさと行きたかったが、アイオン行きの馬車がありそれに乗るのが俺みたいな無名冒険者は後回しになってしまったのだ。
その結果先発隊はかなり奥深くまで進んでいるようだ。
「まぁ、追いつくしかないか」
俺と同じ馬車でやってきた冒険者達は色々と話しながら入口から内部へ入っていくのだが、その直前最後に残った一人が声をかけてきた。
「これじゃ、攻略の賞金はキツそうだよね。参加賞だけかなぁ?それでも結構な額だけどね。もう先発は10階層くらいまで着いてるし無理だろうなぁ」
なんて弱気なことを言って彼も入口に向かっていった。
「さて、あるかな?」
このダンジョン、実は入口は一つでは無い。
原作には入口が2つあったのだ。
アイオンダンジョンの入口の裏には崖が広がっている。
崖から少しだけ乗り出して下を見る。
ヒュオォォォォォォォと底が見えないくらいの崖が目の前に拡がっていた。
そして立ち込める濃霧。
何も見えないが、地面は遥か下だ。
落ちたら即死だ。
事故で落ちる奴はいるだろうが自分から飛び込むの自殺だ。
「この辺り、だったよな」
だが、俺は崖から飛び降りた。
「ヨッ。と」
そして崖から突き出した足場に降り立って壁の方に目をやる。
本来は何も無いはずの壁に
「ビンゴ。ここまで基本的には原作通りなことは確認してあるし、ここも原作通り、だな」
もう一つ穴があるのだ。
ここからダンジョンに入れる。
「さて、行きますか」
この扉を抜ければ15階層からスタートできる。
俺だけ序盤の階層をスキップして攻略を始められる、というわけだ。
重い扉を開けて中に入る。
中に広がるのはゴツゴツとした洞窟型のダンジョン。
これを見ているとこの前クソ女神の奴に追放されたダンジョンを思い出す。
「あいつは殺す」
そう小さく呟いて俺は洞窟を進んでいく。
その道中出てくるモンスター。
そのすべてが雑魚だった。
「雑魚ってのはこんなもんだよな。廃棄されたダンジョンのモンスターが強すぎただけなようだ」
そう呟きながら俺はどんどん奥へと潜っていく。
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