第9話 帝国へ

アイオン帝国へとやってきた。


「さて、どうするか」


原作の流れを思い出す。

とりあえず主人公たちはなんか秘められた力を世界中を旅して集める、みたいなそんな王道的な話だった記憶はある。


俺の描くストーリーはそんな王道からは程遠い訳だが。


【女神殺し】


それが俺の最終目標だから。

王道とは程遠いな。


「この服、とりあえずどうにかしようか」


今の俺は初めのダンジョンで冒険者からぶんどって来た服しかない。

そのため血がこびり付いていて、とにかく、不快な感じがすごい。


アイオン帝国内でも俺への目線はあまりいいものではない。


いかにこの世界がファンタジーな世界でもそう簡単にこの血塗れのスタイルは受け入れられるわけではない、ということらしい。


適当に服屋を探して中に入ると適当な服を買って着替えた。


金は先程襲ってきた盗賊からむしり取ったので最低限はあった。


この国、というか世界の通貨があまり分からなかったので四苦八苦しながら買って出ようとした時


「あ、あれ?」


そのとき声をかけられたのだ。

聞き覚えのある声。


声の聞こえた方を向くとこれまた先程会った女の人が立っていた。


あそこだ。

あの泉に立っていた女の人。


「……」


無言で商品を受け取って外に出ようとしたら


「お待ちください」


と俺の手を握ってきた女の人。


(なんだ、なんだ?まだあの時のことを引きずってんのか?もうやだ)


とか思いながら振りほどこうとしたが


「払い過ぎですよ」


そう言われて彼女は俺ではなく、店主の方に目を向けた。


「ですよね?あの服で、あんなに値段はしませんよね?」


そう言われてうろたえる店主。


「き、気のせいですよ」


声が裏返っていた。


そのときに気づいた。


俺が金の価値を知らないことをいいことにボラれたことに。


ボラれたままというのはたしかに俺としてもあまりいい気はしない。


それに俺はまだこの世界に疎い。

金の稼ぎ方もあまり知らないし、無駄遣いは避けたい。


「悪いが、返してくれないか?」

「は、はぁ……」


そう言ってくる店主だが、女の人に凄まれていて、それで渋々とお金を返してくれた。

払った学の4/5くらい返してくれた。


かなりボラれていたようだ。

俺は女の人に礼を行ってから外に出ようとしたが


「お待ちください」


と一緒に出てくる女の人。


あの時の説教でもしたいのだろうか?勘弁して欲しいなぁと思いながら続きを促すと


「私はレイナです」


と名乗ってきた。

俺も名乗っておくことにしよう。


「ユーカ」

「ユーカですか」


そう言って頷く彼女はそのまま話しかけてきた。


「お金の価値が分からないように見えましたが、大丈夫ですか?」


さて。

なんて答えようか。


転生者、なんて馬鹿正直には答えない方がいいよなぁ、とも思う。


何より俺は第三勢力としてこの世界にいる。

この人もいずれ敵になる可能性もあるしあまり不用意に情報は握られたくないな。


「実はすごい辺境で育ってね。それで世間のことが分からないんだ」


と言ってみる。

苦しいか?とも思ったが彼女は頷いた。


「なるほど。そういうこともあるのですね」


では、と彼女は俺に簡単にこの世界の通貨のことについて説明してくれる。


まず、この世界では金貨、銀貨、銅貨というものが使われていて、それぞれ


金貨=1万円

銀貨=千円

銅貨=100円


程度の価値があることを説明してくれた。

俺は先程銀一枚で買える程度の服に金1を出していたから、違和感を覚えたらしい。


「なるほど。ありがとう」


そう言ってこの前のことを思い出されないうちにズラかろうと思ったが、レイナはまた呼び止めて来る。


「まだなにか?」

「私は盗賊に追われていました」


盗賊、と言うとあのなんとか旅団という盗賊団のことか。


「急に盗賊団の気配が消えた、と思い消えた場所に向かってみるとあなたが立ち去っていこうとしていました」


(見られたのか?あれを)


そう思い少し気を張り詰める。

俺が魔人であることはバレない方がいいに決まっているが。


「とても凄腕の冒険者なのですね」


と俺の手を取ってそう言ってきた。


(へ?)


俺としては魔人であることに突っ込まれないか?ということを気にしていたのだが。


そんなことはなく、これまでのことを説明してきた。


「そこからあなたのことを尾行してきました」

「全然気付かなかったな」

「これでも尾行には自信がありますから」


エッヘンと胸を張ってくる彼女。

なるほど、俺も気が緩んでいたのかもな。


「とにかく、ありがとう」


俺も先程の件についてもう一度礼を言ってから立ち去ることにした。


「ちょ、ちょっと?!」


とまだ呼び止めようとしてくるレイナだったが、消えないフリをして俺は人混みにまぎれ込む。


これ以上会うこともないだろう。



そうして夜になり夕食も兼ねて俺は酒場にやってきた。


夕食も兼ねて、もいうのはメインは別にあるからだ。


そのメインは、と言うと情報集め。


耳を澄ましてここに集まった人たちの会話を盗み聞きする。


「聞いたか?漆黒旅団が壊滅させられたって話」


今聞こえてくる話だが、基本的に酒場はこの話題で持ち切りのようだった。


漆黒旅団と言うと俺が壊滅させた盗賊団のことだな。


「聞いたぜ。しかもそれを殺ったのが謎の冒険者って話だろ?誰が殺ったのか、誰も知らないって話らしいしな」


そうやって話し合う2人の冒険者達。


「しかし漆黒旅団を倒したのに懸賞金も貰いにこねぇのはびっくりだよな」

「あいつらのクビには金貨100もの懸賞金がかけられていたのにな」


そう言われて俺は酒場の中にあった懸賞金のポスターに目をやった。


そこにはたしかにあの涙を流しながら俺に命乞いをしてきたザスの顔があった。


あいつら懸賞金かかってたのか、勿体ないことをしてしまった。


まぁ、仕方ないことだな。


そう思いながら出てきた食事を口に運んでいく。

ここにきて初めて口にしたマトモな食事だ。


そのことに満足しながら俺は食事を終えると今日は宿に向かうことにする。


宿を取るのも初めてだな。


上手く取れるといいが。


まぁ、もうボラれることはないと思う。


そんなことを思いながら立ち上がろうとしたら、バタンと酒場の扉が開いた。


「速報!速報!アイオンダンジョンへの挑戦者募集が始まったよ!!!クリアしたときの報酬金はなんと!金貨100枚!」


アイオンダンジョン……たしか大事な素材が落ちている場所……だったよな。


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