第7話 初めての殺し
俺は宮田が有原さんに伸ばそうとしていた手を根元から切断した。
「ごめん、有原さん。汚い血が飛び散っちゃったね」
そのときに吹き出た宮田の血が有原さんの顔にかかってしまったことを謝罪しながら
「退けよ」
宮田の横っ面を蹴りつけて有原さんの上から退かした。
「ごはっ!ぶひっ!」
先程までの威勢はどこにいったのか無様に転がっていく宮田。
そんな宮田が顔を上げて俺を見てきた。
信じられないようなものを見るような目をしている。
「お、お前……千葉……な、なんでここに……」
「このゲームに詳しいという話は聞こえたさ。
お前が大声で話してたからな。
そのゲーム知識から可能性を見つけてみれば?考えられるパターンはそう多くはないはずだよ」
あのダンジョンになんの力もなく放り込まれて廃棄された俺がどうやって生還するかなんてものは、正直なところ考えられるパターンとしてはひとつしかない。
「……わ、分からないよぉ……な、なんで!能無しのお前が生きて出られるんだよォ?!」
俺は呆れて自分の目の色を変える。
それを見てうずくまったまま宮田は必死に逃げようとした。
この目の色で分かるなんて【ライトニングファンタジー】を遊んでいたことだけは確からしい。
「ひ、【緋色の目】?!!!!!」
この世界の魔族の本来の目の色は赤色だ。
普段は隠しているがいつでも赤い目を出すことができる。
「ま、魔族……な、ど、どうして?!」
「魔族化したのさ」
そう言って宮田に歩み寄る。
「魔族化……お前イカレてるのか……原作から考えたらハズレ率99%のロシアンルーレットをするようなもの……お前1%の当たりを引いたのか?!」
「そうだよ。そして俺は当たりを引いた」
そう言って剣を宮田の胸に突き刺した。
「げふっ……や、やめてくれよ千葉……ぶひっ……」
「俺がやめるような人間に見える?」
魔族にはデフォルトで敵の弱点が分かるという特性がある。
「見えるぞ?お前の心臓。このまま楽に死なせてやる」
そのまま俺は速やかにその心臓を潰してやった。
「……ぶひっ……」
びくっびくっと痙攣してから倒れる宮田。
それを見てから有原さんの近くに戻る。
目の色は戻してある。
「じゃあ、俺はこれで」
伝えて次の目的地に向かおうとしたが、俺を呼び止めてくる有原さん。
「ち、千葉くん。ありがとう」
「礼なんていらないよ」
「わ、私も連れて行ってくれない?もう嫌だよあんな邪神の言いなりになるなんて」
「無理だ」
「ど、どうして?」
「俺といたら有原さんまで危険な目に会うだろう」
あそこまで俺を廃棄しようとした邪神だ。
俺の周りに人がいればなにも言うことなくまとめて殺そうとしてくるだろう。
俺はそうやって人が巻き込まれるのを見たくない。
それだけ言って立ち去ろうとしたら手を握りしめて拳を震わせている有原さん。
「わ、私にできることってないかな?」
「宮田が死んだことは直ぐに伝わるだろう」
というよりあの邪神のことだ。既になんらかの方法で知っていることだろう。
一応原作でも召喚した人間のことはある程度把握していたから死んだか生きているかくらいは判別できるのだろう。
「有原さん。宮田は【ユリーシャ】というやつに殺された、とクオンに伝えておいてくれないか?」
「ユリーシャ?だ、誰?」
聞いてくる有原さんに頷いて答える。
「魔王軍で危険視されている奴さ。好戦的な奴さ」
原作でも序盤から主人公の前に現れていた。
そして色んな悪事をしていたやつ。
そいつに罪を擦り付ける。
「クオンなら名前だけで伝わるはずさ」
そう言って今度こそ歩き出そうとしたが有原さんがまだ声をかけてくる。
「千葉くんはこれからどうするの?」
「俺はあの邪神を地獄に引きずり落とすために動く。つまり有原さんの敵ってわけさ」
女神クオンサイド、魔王サイド、それから俺。
「三つ巴の戦いがこれから始まる。生き残りたければ優しさを捨てること、だな」
そう言って最後に振り返って告げる。
「今回は手を貸したけど、これから俺に出会っても味方だとは思わないことだね」
歩き出す。
宮田を殺した後に溜まっていた通知を俺は開いた。
原作でもこんなように視界の端に通知が溜まっていた。
それを開いてみると
【称号が更新されました】
との事らしい。
ステータスを見てみよう。
【千葉 優華】
LV1780
HP:+2600
MP:+2600
攻撃:+2600
防御:+2600
【適正:魔人Lv2】
【称号:
【特性:ロード・オブ・ブラッド】
↓
【千葉 優華】
LV1780
HP:+2600
MP:+2600
攻撃:+2600
防御:+2600
【適正:魔人Lv2】
【称号:
【特性:ロード・オブ・ブラッド】
「まぁ称号なんてなんでもいいか」
称号なんて原作でもその人物がどういう人物なのかを示す程度のものでしかなかったし、どうでもいい。
それよりも先にとりあえず次の目標を設定しよう。
「とりあえずアイオンを目指すか」
アイオン帝国。
俺が最初に召喚されたのはグリザック王国という場所だったが、原作ではそこを出発して次に向かうべき場所となる。
「この辺りは原作通りに辿ってみるか」
そう思い森を抜けていくことにした。
その道中で泉があったので寄っていくことにする。
今まで洞窟にいたので、ホコリなんかが服について汚いし顔も汗でベタベタだ。
とにかく、顔だけは洗いたかった。
泉に近付くとかがみ込んで顔面を泉の中に突っ込んだ。
ゴシゴシと手で顔をこすってから泉から顔を出した。
さっぱりした。
それはいいが。
「……」
俺はひとりの人型と目があっていた。
その人は女の人で泉の真ん中に全裸で立っていた。
顔を突っ込むまでは気付かなかった。
だから弁明しよう。
「すまない。悪気はなかったんだ。この場から消える。それで許して欲しい」
そう言ってから顔を背けて歩き出そうとしたら
「お、お待ちになってください」
と言われ、俺は怒られると思ってダッシュで逃げた。
「はぁ……死ぬわ」
と、そう思いながら森の中を歩いていると、いきなり天地が逆になった。
「どわっ!」
俺は次の瞬間足を上にして頭を下にして、罠にかかっていた。
こんな古典的な罠にかかるなんてな。
そのとき、俺をこの罠にかけたと思われる数人の男たちが俺たちを囲い始めた。
「よう。兄ちゃん。さて、聞きたいことがあるんだが。まず俺たち【漆黒旅団】という盗賊団を知っているか?」
知らないと言えば嘘になるし知っていると言えばそれはそれで嘘になる。
宙吊りで囲まれている。
普通に考えると圧倒的に不利な状況になりながらも俺は思い出していた。
(世界中で有名なお尋ね者、だったなこいつら)
まぁ、俺の敵では無いな。
原作を考えれば【ダブル】の魔人の前ではこんな罠なんてものはその程度のものでしかない。
俺が何も答えないでいると肯定と受け取ったのか続ける男。
「急いでるんだ。聞かれたことに答えろ。この辺でエルフの女を見なかったか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます