第6話 【有原視点】 ひとり欠けた緊張感
side 有原
「素晴らしいお知らせがあります。よく聞いてください」
優華が女神に消された後私たちは解散を言い渡されていた。
お金を貰って宿を取って宿泊したりしろ、などと言われていたが。
多くの生徒たちはまだ王城に留まっていた中での突然の全体アナウンスだった。
「廃棄処分となった使えない無能の千葉 優華くんがお亡くなりになりました。この世界では簡単に人が死にますね。気を引き締めてくださいね」
「えっ……」
更に言葉だけでなくクラスメイトの顔写真付きの名簿を頭の中に流してくる。
その名簿の優華の顔写真に大きくバツ印が入った。
それで私は崩れ落ちた。
中学からの同級生がこの邪神によって簡単に命を奪われた、と報告されたのだから。
そんな私の内心を知ってか知らずかは分からないが更に神経を逆撫でしてくる邪神。
「出来損ないの役立たずのグズの無能でも死ぬことによって未来の勇者様の気を引きしめるという重要な仕事ができて喜んでいることでしょう。彼のちっぽけな価値のない命を私たちだけでも無駄にしないようにしましょう」
そう言ってアナウンスが終わるのかと思ったがまだ続ける邪神。
「ですが、一応あの役立たずが死んだかどうか確認する必要があります。皆さんの中で彼の死んだダンジョンの前まで確認に向かってくれる人はいますか?」
そう聞かれて私はずっと後悔していたことを思い出した。
どうやって返事したらいいか分からなかったけど口に出した。
「私が行きます」
「有原さんが行ってくれるのですね」
一応話は通じているようで胸を撫で下ろした。
本当に死んだのかどうか、確認に行きたい。
あのとき、何も言ってあげられなかったことをずっと後悔していた。
だから罪滅ぼしのようなものだ。
「他にはいませんか?」
「ほ、僕が行くよ」
「宮田くんが行くのですね」
もう1人宮田くんが同行することになった。
「では、皆さんよき一日を。はぶあないすでー」
最後までふざけきったような態度で話を終わらせる邪神。
そんな邪神から向かうべき場所を指示された。
「待ってて、優華。死んだなんて嘘だよね……?」
そう呟いて私は集合場所の王城の門前まで来た。
そこには既に宮田くんが待っていた。
「や、やぁ、有原さん」
私も優華も宮田くんとは高校で知り合った。
だからこの人がわざわざ優華の様子を見に行く理由なんてなにひとつないんだけど。
どうしているんだろう?
いつも独りだった優華と仲が良かったわけないし。
「どうして、優華の様子を?」
「さ、流石にクラスメイトが死んじゃったなんて言われたら確認に、い、行きたいだけだよ」
との返事らしいけど、この人は優華が廃棄されるとき顔色ひとつ変えてなかったのに。
「とりあえず行きましょう」
このままここでいろいろ頭を悩ませても無駄だと思った私はさっさとダンジョンの方に向かうことにする。
◇
「ここが、優華の消えたダンジョン……か」
私の目の前には扉があった。
あの邪神に言われた通りダンジョンに通じる扉があった。
「扉がひ、開かれた形跡はないね」
宮田くんの言葉に頷いた。
この扉はずいぶんと汚れておりホコリなども溜まっているようだった。
つまりここ直近で開かれた形跡は、残念ながらなかった。
それは優華がこの扉からは出てきていない、ということでもあり
「ち、千葉は死んだみたいだね」
「なんでそんなに嬉しそうなの?」
宮田は口を開きながら少し笑っていた。
「ねぇ、どういうこと?」
「え?だ、だって千葉はうざかったからだよ。死んでせいぜいしたって感じ?ほら、僕達勇者候補なのにいつまでもいつまでも話の進行を邪魔してさ」
信じられないようなことを口にする宮田に私は怒りを覚えた。
あの邪神にしてこの勇者あり、といったやつなのだろうか。
というよりも
「……優華が……死んじゃった?」
私にはなによりもその事実が重く乗りかかっていた。
その場に崩れるようにして倒れ込んでしまう。
「ね、ねぇ、有原さん?千葉は死にましたって報告にいこうよ、ふひひ」
そう言って私の肩に触れてきた宮田。
「行きたないならひとりで行けば?」
「ふひっ?」
「私は優華を助けに行く」
そう言って扉の方に向かう。
この先になにがあるかなんてことは全然分からないし検討もつかないけど、ここでただ蹲って泣いてるだけなんて嫌だったから。
だというのに、まだ声をかけてくる宮田。
「しょ、正気なの?有原さん」
「当然だよ」
私が扉に手をかけようとしたそのとき突如右肩に手を置かれて
「な、なに?!」
そのまま後ろに引っ張られた。
そのせいで体勢を崩してそのまま尻もちをついてしまった。
そんな私を見下ろしてくる宮田。
その目は嫌なものになっていた。
「ふひひ、有原さん。いい体してるよね」
こ、こいつ……まさか。
「だめだよぉ。女の子ひとりでこんなところに来ちゃったら。ここは異世界。前までの法律があると思ったらダメだよぉ?」
初めからこいつ……私を穢すつもりで同行したのか?!
宮田の口の端から汚いヨダレが垂れ流れていた。
「ず、ずっと、待ってたんだこの時を。有原さんとヤリたいってずっと思ってたんだよぉ」
「こ、この!」
私が急いで立ち上がって逃げようとするのを後ろから声をかけてくる宮田。
「逃げない方がいいよぉ?有原さん?僕はこの世界のことなんでも知ってるんだ。僕といたら安全に最後までクリアできるよ?この世界はね【ライトニングファンタジー】っていうゲームの世界だから」
そう言いながら私の逃げる後を追ってくる宮田。
「だからこの森のことも知ってるし、君が逃げそうな場所もわかるんだよぉ?僕はこのゲー厶やり込んだからねぇ。ぶーひっひっひ」
大声で笑いながら追ってくる宮田から私は逃げ惑うしか出来なかった。
そのときにもういないはずの人の名前を呼んでいた。
「ごめん……優華。助けてよ……」
涙で滲んでいた視界のせいで木の根が伸びていることに気付かずに転けてしまった。
「きゃっ!」
「追いかけっこは終わりだねぇ。有原さん。ふひっふひっ……」
膝に手を着いて肩で息をする宮田。
「ぼく、太ってるから逃げないで欲しいなぁ?しんどいんだよ?走るの」
そう言って私の上に乗ってくる宮田。
「優華……助けて……」
「だからさぁ?千葉は死んだよ?この世界で君を助けられるのは僕だけなんだ!そのお礼を前払いで貰うだけだよぉ?!ぶーひっひっひ!」
宮田がその気持ちの悪い手汗塗れの手を私の服に伸ばそうとした。
大量に出ていた手汗が水しぶきのように私の顔にかかろうとしたその時
「……っ?」
私の顔にかかったのは汗などではなく、真っ赤な血だった。
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