第4話 二度目の進化

「空を飛んでるのか」


重い扉を押し開けて中に入ると空中に浮かぶ白い仮面があった。

あるのは、それだけ。


「あれが、ここのボスのソウルイーターか」


念の為気付かれないように部屋の中にある適当な障害物に身を隠しながら進む。


「どうやって攻撃するよ。あんなの」


ぶっちゃけると強くなったとはいえ、今の俺には魔法なんて使えない。


だから古典的な方法で剣を片手にミノタウロスと戦ったり、血を入れて毒殺紛いの事をしたりしたわけだが……。


「空飛ぶ仮面をどうやって倒すか、だよな」


このゲームのダンジョンはボスを撃破しなければ次の階層に進めないようになっている。


だから無視して進むなんてことも出来ないんだが……。


どうする……。


戻ってレベル上げ……。


首を横に振ってその考えを消す。


俺のレベルは500を超えた。

物理で、ステータスの暴力で殴り殺せばいいんじゃないか?


「ちっ……」


舌打ちしてとりあえず仮面の前に出た。


「ソウルイーター」


呼びかけるといきなり攻撃してきた。


「がっ!」


俺の肩を謎の光線で射抜かれた。


「痛いけど無駄だ、再生するぞ?」


そう言いながら肩を確認してみたが、


(さ、再生してない?!)


すぐにまた障害物の影に隠れた。


だが、1度姿を見せた俺をソウルイーターはさっきの光線でどんどん攻撃してくる。

光線の方は障害物に当たって消えているが……。


ズキズキと痛む肩を抑えて考える。


(降りてこないな……しかも傷が再生しないとなると)


原作の知識を使う。


俺の再生能力は回復魔法と同じ分類に分けられていたはずだ、となると。


(恐らくだが、奴の攻撃には【回復無効化】のデバフ効果がついている、ということか。このデバフを解除する方法は今の俺には無い)


どうすればいい……そう思っていたその時。


カランと俺の服の内側でなにかが音を立てた。

それで思い出す。


「ダブル……」


俺は最初のミノタウロスを撃破した後、次に別のモンスターであるウルフを倒していた。


そいつから一応血液を回収していたのだ。


それが俺の服の中にあるビンに入っている。


「……」


唾を飲み込んだ。

回復もしない、魔法も使えない、この場面を切り抜けるには……ダブルしかないような気もする。

しかし、原作ではただの魔族化ですら【1/100,000】と言われた確率。


その先のダブルは更に難易度が跳ね上がる。


​───────【1/1,000,000】と言われていた。


それだけモンスターの血を体内に入れるというのは、リスクがある事だった。


「正直魔族化ですら十分に強くなれてるはずだが……」


その先をリスクを犯してでも目指す必要があるのか、どうか、だが。


奴のデバフを容赦なく無効化する方法でもある。

原作はランクというものを重視していた。


AランクはSランクに絶対勝てない、というような設定。

その設定は格下であればデバフ効果すら無効化できるというもの。


「俺自身の格が上がれば奴のデバフを無視して再生するようになると思うんだが」


深く息を吸って覚悟を決めた。

ビンの蓋を開けてウルフの血液を流し込む。


1分後凄まじい吐き気に襲われて吐いた。


俺の体の中でミノタウロスの血とウルフの血が争っているような、そんな感覚だった。


「成功したのか……?」


しばらく我慢していると体の不調は急に終わった。


失敗すれば体が爆散するのだが、俺にその様子は見られなかった。


俺は​───────


【1/1,000,000】


を引き当てたのだ。


肩の傷口を見ると俺の再生能力はまた効果を戻していた。


これで俺は多分ソウルイーターの上に立てたと思う。


そう思いまた姿を見せた。


光線が飛んできてまた肩に当たったが今度は再生してくれる。


俺とソウルイーターの間の力量差の天秤は完全に俺に傾いた瞬間だった。


「ギィィィィ?!!!!」


仮面は声を出してどんどんと攻撃してくるが、そのどれもが俺に当たったところで無駄な攻撃だった。


だって、即座に回復するのだから。


そこで俺の視界に現れるウィンドウ


【特性:ロード・オブ・ブラッドを入手しました】


それを見てよく分からなかったが呟く。


「ははっ、今度は俺がお前を蹂躙してやる」


そう告げてみたが空を飛ぶあいつに攻撃する手段が相変わらず俺にはなかった。


そのとき


【ソウルイーターが召喚サモンを使いました】


ソウルイーターの行動がログに出てきた。


見ていると俺の視線の先に黒い棺が出てきた。


その中からは


「タスケテ」

「タスケテ」


と声を出しながら人の形をしたモノが大量に出てきた。


それは……多分このソウルイーターに魂を食われた者たちなのだろう。


そいつらが武器を持って俺に向かって進行してくる。

こいつらをとりあえずケチらさなければ課題は解決しないが……人の形をした奴らに攻撃することなど、精神的に難しい。


そんな俺を見て笑うソウルイーター。


「ケーケッケ!!!」

「精神攻撃……ってわけか」


俺はそう呟いてどうするか、悩んでいると突如またログが更新された。


【ロード・オブ・ブラッドの効果が発動しました】


【この場の使い魔はすべてあなたの使い魔となります】


その瞬間


「ロード……」

「ロードォ……」


と魂達が言葉にして俺に背を向けた。


という事は……つまり。


こいつらは自分の主であるはずのソウルイーターに剣を向けたのだ。


「ぎ、ギィィィィィィ?!!!!」


うろたえ始めるソウルイーター。

突然の出来事に思考が追いつかないのだろう。


それもそうか。自分で出した使い魔によって自分は劣勢に立たされているのだから。


更に


「ブモォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」


ボス部屋の扉が突然開いた。

そこから部屋の中に入ってきたのはミノタウロス。


「ロードォォォォォォ」


と叫び俺の前に立った。


「ま、まさか……味方なのか?」


突然のことに驚いた。

明らかにこのミノタウロスは俺ではなくソウルイーターを敵として認識しているようだった。


「パラライズ」


先に寝返った魂達がソウルイーターに魔法パラライズを使っていた。


痺れてその動きを止めるソウルイーター。


「ギィィィィィィィィ!!!!!」


叫んでその動きを止めるソウルイーター。

更に


「ブモォォォォォォォォォォォォ!!!!!」


ミノタウロスが棍棒をソウルイーターに投げつけると、直撃したソウルイーターは緩やかに地面に落ちてきた。


「はっ、無様なものだな」


落ちてきたのならこっちのものだ。


俺はただゆっくりとソウルイーターに近寄っていく。


ソウルイーターの目を見おろせる位置まできて口を開いた。


ソウルイーターを踏みつけながら口を開く。


「どうだ?見下ろされる気分は。じっくり聞かせてくれよ。時間はたーっぷりあるんだから、さ」

「ギィィィィィィ!!!ギィィィィィィ!!!」


こいつのデバフはもう通らない。

それは俺のランクがこいつより上になった証拠。


つまり空中から落ちてきたこいつにもう勝ち筋はない。


「俺は魔法が使えないから今から一方的にぶん殴ってやるよ、お前のこと。これは戦いではない、ただの蹂躙だ」

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