第3話 唯一の成功例
俺は起き上がった。
「成功、したのか?」
俺を食おうとしていたミノタウロスは既に消え去っていた。
魔族化はいったん人間として死亡してから、魔人として復活する。
だから一回死ぬのだ。
だからミノタウロスは俺が死んだものとして興味を失ったものだと思われる。
安全を確保したところでミノタウロスに食いちぎられた足を見てみると。
「ばっちりだ、治ってる」
夢みたいな話だが、なくなったはずの足が再生していた。
「ステータスオープン」
【千葉 優華】
LV1
HP:+30
MP:+30
攻撃:+30
防御:+30
【適正:魔人】
【称号:
「成功したようだな」
原作では殆どの人間が血を体に入れた瞬間死亡していたし、作中では成功者は結局出なかったが、俺は成功したようだ。
「仮説を立てるとすると、俺の適正がなにもなしだったからじゃないかな」
そう思う。
原作でも適正持ちはことごとく死んでいた。
だが俺は元々なんの適正もなく、いつでも魔人になれる、状態だったのではないか、と推測する。
何者でもないから何者にでもなれる、というやつじゃないかな。
「まぁ、どうでもいいか。そんなこと」
今は魔族化成功を噛み締めよう。
そう思い横穴から出ると近くには先程俺を襲ってきたと見られるミノタウロスが寝ていた。
「悠長に寝ているのか」
俺に慈悲など求めるものでは無い。
寝ているのなら好機だ。
そう思った俺は足音を立てずにミノタウロスに近付いた。
そして自分の腕を剣で切りつけた。
飛び散る俺の血。
次にミノタウロスの心臓があるであろう部分に剣を突き立てながら、保険で俺の血を傷口に流し込む。
「ブモォォォォォォォオォォォォ!!!!!!」
飛び起きるミノタウロス。
「心臓をやり損ねたか」
すんなりいけば今の一撃で死んだだろうが。
失敗したようだった。
その後もミノタウロスの猛攻が続く。
今の俺は避けることで精一杯だった。
当然だ。
ステータスが10倍になったとは言えそれだけで勝てるほど甘い相手ではないのだろう。
現に今も何回も攻撃を貰っている。
しかし
「ブモッ!」
突如異変を感じたの動きを止めるミノタウロス。
そのまま体を震わせて。
ミノタウロスは内側から爆発した。
地面に飛び散るミノタウロスの臓器や血。
「やはり原作通り【ダブル】にはなれんか」
原作では【ダブル】と呼ばれる存在がいる。
人間が魔族の血を体内に入れてはいけないように、魔族側も他の魔族の血を体内に入れてはいけない、という決まりが一応ある。
そしてその決まりを破ればこの通りだが、まれに生き残る魔族もいる。
その場合はより強力な力を得ることができて【ダブル】と呼ばれる存在になるが、原則モンスターは【ダブル】になれない。
そしてダブルになれなかった場合こうやって死ぬ。
他の血を入れた瞬間アウトだ。
そんなことも原作通りなようだ。
もっとも原作では使われることのない死に設定だったが。
「原作知識は通じる、というわけか」
ミノタウロスの血でできた池の中を歩いていると
【レベルが上がりました】
と表示が出る。
「レベルアップ、ね。今のでも上がるんだ。ありがたい話だ」
そう思って見ていると俺のステータスが更新された。
【千葉 優華】
LV1
HP:+30
MP:+30
攻撃:+30
防御:+30
【適正:魔人】
【称号:
↓
【千葉 優華】
LV580
HP:+880
MP:+880
攻撃:+880
防御:+880
【適正:魔人】
【称号:
「結構上がったな」
まぁそれもそうか。
このダンジョンは雑魚が雑魚ではないから。
体感だがこのダンジョンの雑魚は中盤のボスくらいの強さがある。
だから得られる経験値も多いのだろう。
ピチャピチャと音を鳴らしながら血の池を出てダンジョンの方の攻略を進めていく。
「廃棄されたことを考えなければ適正なしは一番の当たりだったかもな、これじゃ」
そんなことを呟く精神的余裕も一応出てきたが。
「人間側に溶け込めるのかなこれ」
原作の魔族は基本的に敵だった。
そんな俺を迎え入れてくれるかどうかってところだが。
魔王軍はもっと引き入れてくれるとも思えない。
なら、なんとか、誤魔化すしかないか。
そう思いながら歩いていると、目の前には階段が現れた。
次の階層に行ける、ということらしい。
「進んじまうか」
特に何も考えることなく俺はその階段を上っていくことにした。
こんな洞窟早く出てしまいたいしな。
◇
「はぁ、はぁ」
「ギィィィィィィィェェェェェェ!!!!!」
「グェェェェェェェェ!!!!!!!」
逃げるようにダンジョンを走り回っていた。
モンスターがどんどんと追いかけてくるのだ。
「追ってくるなぁ!」
そんなモンスター共を吹き飛ばすように剣を振ってみたりしているが、数が多すぎる。
ゲームでもよくあるパターンだ。
雑魚の数が多すぎて完全に雑魚戦の方がキツイってパターン。
しかもどうやら無限沸きのようで倒しても倒してもキリがない。
「くそ!魔族化したからって見逃してくれはしないのか?!」
俺はどちらかと言えばもうこいつらモンスター側に近い存在のはずだが、見逃してくれる様子は見えない。
「はぁ……」
悪態を着きながら走っていると、やがて目の前に扉が見えてきた。
「飛び込むしかないのか?!」
と思いながら振り返ると、モンスター達は一定以上俺に近付こうとしなくなっていた。
ピタリとその動きを止めたのだ。
そして、そのまま歩き去ろうとするモンスター達。
なんというか怯えているように見えた。
この扉の先の存在を怒らせてはいけない。そんなように見えた。
観察してみるとこの扉ボス部屋のようだった。
「ん?」
ボス部屋の前に死体が散らかっていた。
「このボスにやられたのかな」
そう思いながら、なにかないかと思って死体を漁ると日記があった。
「なに語だ?」
そう思ったがなんとなく読めるのはあのクソ女神が俺たちに翻訳魔法みたいなのを使ってくれたお陰だと思う。
それだけは感謝しながら読んでいく。
─────────────────────
この先に待つ
奴はこのダンジョンにおいて最後の門番の役割を担っている。
そして、今まで撃破した人間は─────
ゼロだ。
そんなダンジョンに挑んでしまった自分を今は責めたい。
仲間が何人も既に死んだ。
これを……書いてる俺も……もうすぐで……
─────────────────────
「書いてる時に襲われたのか?」
メモはそこで途切れていた。
俺はその日記帳をガイコツに返してから目の前にそびえ立つ扉に目をやった。
「ソウルイーター……か。なんにせよ、進むしかないようだな。俺もこのダンジョンのガイコツになるのは、ごめんだからな」
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