第6話

異物の入ってしまった雪は、もう彼の知っている、彼の大切なお嬢様ではないわけで。そうなると彼に相応しい人物ではないことも明らかだ。


やはり、距離を置かなくてはいけない。彼の愛したお嬢様ではない私は、もう彼を側に置く権利など、持ち合わせてはいないのだから。


「雪お嬢様」


「なぁに、拓翔」


「本当に、大丈夫なのですか」


本気で私を心配している拓翔に、大丈夫だと笑みを浮かべて躱し、エスコートを受けて車に乗り込む。本当に雪はお屋敷にいる拓翔以外の人とは話もせずに外出していたらしい。誰も見送りがないままに、私は学校へと送り届けられた。


学校へついても、話しかけようとしてくる生徒はいない。何せ我儘お嬢様はここでも傍若無人ぶりを発揮していたから。残念ながら、金だけはあった家なので、何かの圧力を恐れて私を遠巻きにするだけで虐めなどもない。


(暇だわ……こんなことなら読書用の小説でも持ってこればよかった……ってそうか、雪は自分を見せることを嫌っていたからそんなことはしないか……)


私が静かなのを見てヒソヒソと話をする生徒たちが多い。たしかに雪は誰彼構わずに突っかかることも多かったから、静かなのが不思議なのだろう。


これから退屈な授業が始まるのだ、と思うと面倒だけれど、やるしかない。雪にとってこの学校を出ることは重要なことだ。大学に進学するのも大事だけれど、この学校はお金持ちの学校、それだけで箔は十分につく。


(教師にも恐れられるか……きちんと、すれば……今からでも遅くはないかもしれない)


授業中、故意に外される指名に、内心呆れる。どれだけこの子は暴れ倒したのだろうか、と。


(いや、むしろ普通になれば、今まで私を守ってくれていた拓翔を解放できるし、私もあの家から出られるのでは?)


今の私の目標は、とりあえずあの家から出ることだった。どんなことをしてでも出るつもりだけど、できれば穏便に出てしまいたい。というか、それが理想だ。


「では、これで授業を終わります。課題は次回提出です」


一応はみんなと同じように配られる課題を受け取り、次回提出までに仕上げて提出するように段取りをする。


それ以降の授業も、私は背を伸ばしてしっかりと授業に取り組んだ、その姿を見たクラスメイト達がお化けでも見たかのような顔になったのは言うまでもない。


「雪お嬢様、お疲れ様です」


「ありがとう、拓翔」


定刻通り、お迎えに来てくれた拓翔と合流し、車に乗る。


「ねえ、少し寄ってほしいところがあるんだけど」


「どちらへ?」


「ここの文具屋さん」


スマホで表示した文具店までの地図を見せて、行きたいとアピールすれば、彼は笑顔で頷いた。私があの家へ帰ることをあまり喜んでいなかったので、きっと離れるのが嬉しいのだろう。


「他にもありませんか?」


現に、私をあの家から遠ざけようと行きたいところを聞いてくるし。

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